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リアルナイトメア

第4章 人形部屋の管理人


どうしよう。
私も、その手にしている“人”のようにされてしまうのだろうか。
この軍服の人が凶器になるような物を持っているようには見えないが、場所が場所だし、引きずって来たのが血塗れの“人”となればもう恐怖しかない。
しかし彼は何かを発することも、再び動き出す事もなく、ただ黙って私を見下ろしている。
……と言うより、私が両手に握っている万年筆を見ているようだった。

もしかして、この万年筆の持ち主ってこの人…?
ずっとこのままでいても仕方がないので、私は勇気を振り絞って聞いてみることにした。


「ぁ…のっ!これ、さっき拾ったんですけど、もしかしてあなたの…ですか…?」


絞り出した声は掠れて小さくなってしまったが、その人の耳には届いたようで、コクリと一つ頷いて見せた。


「じゃあ、お、お返ししますっ」


どうぞ!と、勢い良く万年筆を差し出すと、その人は一拍置いてからゆっくりと手を伸ばしてそれ受け取ってくれた。

よ、良かったぁ……。
なにかされるのではないかという恐怖心がない訳ではなかったので、何事もなくこの人が万年筆を受け取ってくれた事に私がホッと胸を撫で下ろしていると、突然ドシャッという音がして体が思い切り跳ね上がった。

驚いて音の元を探してみると、どうやら軍服の人が手にしていた“もの”から手を放したようで、それが床に落ちた時の音だったようだ。

驚き過ぎて心臓が痛い…。
一体どうしたのかとその人を見ると、彼は胸ポケットから小さな手帳を取り出して開き、そこにスラスラとペンを滑らせている。
そして何か書き終わったのか手帳のページを破り、私に差し出した。


「……?」


不思議に思いながらもそれを受け取って見ると、そこには綺麗な文字でこう書かれていた。


【ありがとうございます】


軍服のせいか少し威圧感のある見た目とは違い、物腰の柔らかな敬語が使われた文字を見て紙から視線を上げると、その人は被っていた帽子を胸に押し当てて浅くお辞儀をしていた。
その姿に私は慌てて「い、いえ!」と返す。そんな風にされるとなんだか恐縮してしまう。

それにしても、直接言わずに紙に書いて渡すという事は、もしかしてこの人は喋ることが出来ないのだろうか?
もしそうだとしたら、筆談にペンは必須だ。ちゃんと渡せて良かった。


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