第3章 不気味な部屋
「ふぅ……」
トンっと壁に背を預けて、深く息を吐き出す。
体重いな、なんて思いながらぼんやりと正面にある燭台の火を眺めた。
「………」
ふと、今まで起きた事を思い出す。
襲ってきた人形。壁に書き殴られた文字。しゃべる扉。リアルな人形が吊るされた不気味な部屋。
この屋敷は、まるで悪夢のよう。
以前シロノが「この場所は夢であり、現実でもある空間」だなんて言っていたけど、こんなのが現実だなんて考えたくない。
ならやっぱり夢?
ああ、ダメだ。頭がこんがらがりそう。
そもそも、そんな事を言うシロノ自体が不思議の塊なのだ。
性格も不思議で、掴み所がなくて…。
こんな不気味な場所で探し物をしてるって言うし、なぜ私を助けてくれるのかもよくわからない。
そしていつも笑ってるのに、時々見せる切なそうな顔も。
「…わからないことだらけだな」
この場所の事も、シロノの事も、私はまだ何も知らない。
いつかわかる時が来るのかな…。
「あ、そういえば…」
さっき廊下で拾った万年筆。
あれの持ち主もわかってないんだよね。確かポケットに入れたはず…。
そう思って制服のポケットに手を入れると、コツンと硬いものに触れた。
これだ。
私はポケットから万年筆を取り出す。
手にした万年筆は、やはり先程と同じく綺麗なのに何処か不気味さを帯びている。
一体誰の落し物なのだろう?ペンを使うって事だから、人?
…人であって欲しい。切実に。
こんな所に普通の人がいるかどうかすら危ういが、そう願わずにはいられなかった。
「さて、そろそろ戻ろうかな」
少し休んだら多少吐き気もマシになった。
休んでばかりもいられない。このおかしな場所から出るためなんだ、頑張らないと。
そう自分を鼓舞して、壁から背を離す。
……と。
ズル、ズル
「……?」
何か聞こえた。
なんだろうともう一度耳を澄ませると、また聞こえた。
ズルズルと何かを引きずるような音が、暗い廊下の奥から聞こえてくる。
なにか、こっちに来てる……?
その音で思い出されたのは、床に着いていた赤い跡。
あれも確か、何かを引きずったような跡だったはず。
「……まさか」
手にしていた万年筆をぎゅっと両手で握った。
嫌な予感がする。そしてそれはほぼ間違いなく的中するだろう。
ああ、やっぱりここは悪夢のようだ。