第3章 不気味な部屋
「優衣ちゃん、これは人じゃない。“人形”だよ」
「にん、ぎょう?」
「そう、人形」
そう言われて一瞬本当に私の見間違いかと思ったが、すぐにさっきの光景が瞼に浮かんだ。
「うっ、嘘だよ…!あんなリアルな人形あるわけない…っ」
「嘘じゃない。僕は優衣ちゃんに嘘は吐かないよ、絶対に。
ほら、良く見てご覧。上手く作られてるけど案外雑な所もある。
それに本当にこれが人なら、血の臭いがするんじゃないかな?」
「………」
確かに。
言われてみれば、血の臭いや異臭なんかは全くしない。
恐る恐る目を開けてみると、いつものニッコリした顔が私を見ていた。
「良かった、目を開けてくれて。人形はどうでもいいけれど、君が僕を見てくれないのは寂しいからね」
「…なにそれ」
私は小さく苦笑をして、あまり見たくはないけれどもう一度部屋の中を見渡してみた。
やはりそこには無残な姿で吊るされた人が……
「……ん?」
良く見たら吊るされた人達は目が×、鼻はJ、口は沢山の×で描かれているだけのなんともちゃちなもので、試しに触ってみたらそれは人間のような柔らかな感触ではなく、木製の硬いものだった。
…これは…マネキン?
「………」
「ね?人形だったでしょ?」
確かにシロノの言う通り、ここに吊るされているのは皆人ではなかった。
でもじゃああの赤い跡や、人形から滴っている液体はなんなんだ。
この屋敷の主の趣味かなにかなのか。
考え出したらキリがないので、もう深く考えるのはやめよう……。
「…はぁ」
なんだかどっと疲れてしまった。
いくら人形と言えど、パッと見本物の人に見えるし、見ていて気分の良いものではない。
気持ち悪い…。吐き気がぶり返してきた…。
「……ごめん、シロノ。私ちょっと出てていい?」
「うん、いいよ。じゃあ僕はもう少しここ調べてみるから、何かあったら呼んでね」
「わかった」
そう短く返事を返して、私は部屋を出た。
本当なら私も一緒にこの部屋を調べた方がいいのだけれど、今は少しだけ廊下で休ませてもらおう。