第3章 不気味な部屋
「…ここ?」
跡を辿っていくと、赤い跡はある部屋の前でカーブを描いて途切れていた。
この部屋に運び込まれたのか入っていったのかはわからないけど、ここで間違いないようだ。
部屋の扉は完全に閉まっているわけではなく、数センチの隙間が開いていて、僅かに見える暗闇は私達に入って来いと言っているようだった。
ごくりと喉がなる。
この部屋に入るなと本能が言っている。
なのに…。
「ここだね」
「シ、シロノっ?」
シロノはスルリと私の手を放すと、いつもの調子で何の抵抗もなく半開きの扉を開けてしまった。
「ちょ、危ないよ!」
なにかいるかもしれないのに…!
そんな私の心配も余所に、すたすたと部屋の中へと入っていくシロノ。
何考えてるのあの人!?
いや何も考えてないかもしれないけど、ああどうしよう…!!
部屋の前で狼狽していると、中からシロノの声が聞こえた。
「うーん……うん。優衣ちゃん、入って来ても大丈夫だよ」
「ええ!?本当に……?」
おいで、と私を呼ぶ声に半信半疑になりながらも、恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れた。
「…っ!?」
目に入った光景は悲惨なものだった。
大人から子供、男女様々な人達が無残な姿で天井から吊るされていたのだ。
「うっ…」
込み上げてくる吐き気に口を抑えて、目をぎゅっと強く瞑った。
今更目を閉じた所で、瞼にはしっかりとあの惨状が焼き付いて離れない。
薄暗い部屋に何人、何十人もの人達が透明な糸のような物で吊るされている姿。
中には四肢がもがれている人や、胴体だけ、首だけといった人もいた。
あの赤い跡は、この人達を引きずってきた跡だったんだ。
生きていた人を殺して、ここで……。
そう考えてまた激しい吐き気が襲い、涙が溢れた。
「優衣ちゃん?どうしたの?」
こんな場所には似つかわしくない声がした。シロノだ。
こんな殺人現場を見て、なぜ彼は動じていないのだろうか。
私がおかしいの?いやそんな筈はない。
こんなの、普通じゃない。
「っ、う、く。
なんでそんな……平気でいられるの…っ?人が、人がこんな大勢死んでるのに…っ!!」
「人が死んでる?」
シロノは心底不思議そうに言うと、少しの間を置いてクスリと笑い、宥めるような声音で言った。