第3章 不気味な部屋
「……」
「…シロノ?」
暫くして突然シロノが足を止めた。
不思議に思って彼を見ると、何やらシロノは下を見ている。
それに倣って私も視線を下に落とすと、そこには何かを引きずったような跡があった。
「…っ!?」
しかもその跡は赤く、生々しい血のようだ。
「これ、奥に続いてるね」
シロノの言うように、赤い跡は薄暗い廊下の先に続いていた。
まるで私達を奥へ、奥へと誘っているように。
「この跡、辿ってみようか」
「えっ」
「何かあるかもしれないよ?」
「何かって…」
もしこれが本当に血だとしたら、この先にあるのは……。
「……っ」
考えるのをやめた。
どう考えても、この先にあるものは絶対に良いものじゃない。
実はいちごジャムでしたってオチでもない限り。
でもどっちみち、ここを通っていく他ないのだけれど。
「怖い?」
シロノは首を傾げて私を伺う。
怖くないと言えば嘘になるけど、進まない訳にはいかない。
大丈夫、大丈夫。
自分にそう言い聞かせても、体は正直なもので小さく震えだしていた。
情けない。
しっかりしなくちゃいけないのに…!
「大丈夫」
「!」
優しい声と共に、きつく握り締めていた手にシロノの手が重なった。
「大丈夫。僕が一緒にいるから、何も怖がる事なんてないよ。
何があっても、僕が優衣ちゃんを守るから」
シロノ…?
柔らかな声音の中にどこか切なげで、けれど強い決意のようなものを感じた。
どうしてだろう。
私とシロノはここで初めて会って、知り合ったばかりなのに。
どうして、そんな風に言うの…?
不思議に思いながらも私がその言葉に小さく頷くと、シロノはぱっと表情を明るくした。
「優衣ちゃんは良い子だね。
さぁ、おいで」
そう言ってシロノは私の手を引く。
薄い手袋越しに伝わる温もりを感じながら、私達は奥へと続く赤い跡を辿って歩き出した。