第2章 左手
「でも実はね、クリスマス頃に『あ!靴下でもよかった!』って」
「あ~、うん…」
靴下ね!それもあったな。毛糸モノランキング上位でしょ、靴下も。あと…いらないけど、毛糸のパンツ、とかいうのもあるよね。まぁいらないけど。
コレ靴下の方が、むしろ実用性は高かったかもしれないな。だって絶対外で履かないじゃん。毛糸の靴下…ルームソックス的なやつでしょ?ま、家でも履かないだろうけど…。でもまだ!可能性としてはまだっ!(笑)
「でももう指何本か編んじゃってたからさぁ。そこから変更するのは惜しいっていうか…」
「ま~…そう、だよね。コレ、大変そうだもんなぁ、編むの…」
「大変だった!」
「やっぱり?(笑)」
だろうねぇ。ほぼほぼ素人のあなたに、このハードルがどれだけ高かったか。ド素人の俺の目でも大変そうなのはよくわかる。そんで、ここまで形にできたってのもさ。よくやったよ、ホントに。絶対一発では仕上げてないからね、これ。ほどいて、また編んで?右手終わったら今度は同じのをもう1回?
…チョ~~大変。
「今世紀最大の超大作!ありがとう!!」
「うん!」
弥絵、『使ってね』とは一言も言わなかったの。とりあえずまあまあの出来に仕上がって、俺に無事渡せて。そこで満足しちゃったのかもしれない。
でもさ
受け取った側としては、そのままタンスのこやし…ってわけにいかないじゃない。他の人から貰ったんならそうなるだろうけど。100パー。
でも
コレは、さ。無理よ。
俺、知ってるもん。実は。
こいつの存在知って、ちょっとだけ気にしてたから。「誰のかな?」って。
だから弥絵ん家に行くたび、巧妙に隠してあるコイツの成長過程、コッソリ確認してた。指一本目…かな。だい~ぶかかったよ。半分くらい行ってたはずなのに、次に見たら後退してんだもん。まあ…納得いかなかったんでしょ?素人なのにそこは完ぺき主義っていうか。彼女の中の許せるボーダーに達してなかったんだろうね。
そんな行ったり来たりを繰り返して、少しずつ、ホントに少しずつ形ができていって。だいぶ経ってからだからね。コイツが「手袋か!」って認識できたの。