第4章 >>3 深夜徘徊は駄目な件
『は?!』
「俺の布団貸すの嫌だかんねー!後、シャンプーも岩ちゃんの使わせてよね!俺のは絶対駄目だから!」
「は?お前が勝手に俺の家に持ち込んだもんだろーが!俺が使おうが文句ねぇーだろ?!ああ?!!」
「暴力反対!岩ちゃんのジャイアン!!痛いっ…痛いって!!」
何だか僕を挟んでわちゃわちゃになってる。
というか、早く下ろして欲しいし、帰りたいし帰れない。
そうこうしていると、1台のタクシーが目の前に止まり、それに乗り込む形となる。
早く帰りたい。
その言葉だけが頭に浮かぶ。
「岩ちゃん、お人好しにも程があるよ。」
「うっせぇ。」
タクシーの窓から見える煌びやかなネオンを、鬱陶しそうに睨む男の横顔がやけに寂しそうに見えた。
「うげぇ…疲れた…!」
高級住宅街に一軒家。
何故か僕はそこに来ていた。
及川と呼ばれる男は大きなソファに飛び込むと、乱暴にスーツの上着を放り投げた。
「今日の客は確かに無かったな。花巻があんな嫌そうな顔してんの、はじめて見たわ。」
ようやく笑った男は、僕を下ろして冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
「まあ、花巻のおかげで早く店閉めれたんだけどな。」
そう続けて、再び冷蔵庫を漁り何かを取り出す。
「お前…は、未成年だからこっちな。」
そう言って渡されたのはオレンジジュース。
色々ツッコミたい箇所はあるが、何より。
いや、要らない。
『あの…帰りたいんすけど。』
ポツリと消え入りそうな声で呟いた。
「朝送ってやっから泊まってけ、な?あ、俺岩泉。あっちが及川。お前は?」
岩泉と及川。
しっかり覚えた。
名前を聞かれて、冷や汗が背中を伝うが平然を装って。
『斉藤です。』
安直。
自分でもそう思った。