第17章 >>15 社畜は家畜な件
「何これ...。」
月島さんが出てくる情報に目をやるが追いつかない。
特定した情報が追い付かない。
情報量が多過ぎるのだ。
『こんな仕事...引き受けなきゃ良かった...!』
そう叫んだのもつかの間、パソコンの画面が切り替わりメッセージが大量に表示される。
《やっと見つけましたわ!キチィちゃんですわ!》
家の電話が鳴り響き、オートロックが自動で解除しっ放しになる。
《カラスとフクロウがいますわ!キチィちゃんといますわ!》
《絵筆》からのメッセージは止まることが無い。
手が震える。足が震える。
『赤葦さん...月島さん...僕達、いや...カラーギャングの負けだ...。逆探された...。』
悔しい気持ちも打ち砕かれ、諦めの二文字が心を支配していく。
キチィちゃんは、ネット界最強では無くなったのだ。
バラバラだったネット上の歯車が噛み合った瞬間、それはキチィちゃんすら飲み込む大きな大きなナニかになる。
こんな事になるとは予想もして無かったし、もう何処にも隠れる場所なんて...。
「さんっ...早く身支度をして!」
項垂れた僕の腕を掴み、赤葦さんが叫ぶ。
「月島!っ...仕方ない、黒尾さんに連絡して!」
「わかりました...っ。」
二人が忙しなくスマホを取り出し何処かに逃げる準備を始める。
立ちたいのに力が入らない。
動かない。
「早く、早く知らせて...ここから離れなければ...。」
僕は恥ずかしい事に、ただただ呆然と忙しなく走り回る二人を眺めていた。
自分の中のキチィちゃんがバラバラに砕かれた時、今迄ずっと心に隠していた箱の蓋が外れる。
『どうしよう...私...私...。』
「月島っ...駄目だ、俺が背負うから、車を回してくれ。」
「黒尾さんに話つけたんで、そこに向かいましょう。」
優しい香水の香りがふんわりと鼻を擽る。
赤葦さんの体温が伝わる。
背中がゆっくりと揺れる。
視界がぐらぐらと揺らぐ。
月島さんの車が見える。
月島さんが車から降りるのが見える。
月島さんの後ろに......。
『月島さん危ないッ!!!』
視界に映るは赤い赤い血と、次に見えたのは暗い暗い闇だった。