第10章 >>8 お気に入りな件
「んー…そんなに警戒しなくても。気軽に覚って呼んでくれれば良いのに。」
むすっとしながらこちらを見つめる目。
蛇みたいだと、思った。
『警戒すんなって、無理ありすぎ。』
自分でも根に持つタイプだと思う。
非常に厄介な性格だとも自覚してる。
だから、こうやって、先ほどあんな事があったばかりの奴と歩くのすら億劫なのだ。
『大体、何で僕なんかに…。』
言う途中、言葉は何かに持っていかれた。
唇に触れる、冷たい感覚。
目線に広がる、彼の顔。
ふわりと香る、甘い煙草の香り。
丸い目と合う。
『っ…!!』
途端に消えた。蜃気楼の様に。
周りの音も、周りの人も、消えたのだ。
そんな錯覚。
「ちゃんさあ、女の子なんだから僕って言うのやめよーよ。」
ね?と腰を撫でられた瞬間、消えてた音や人が現れた。
足が砕かれた様に力が入らなくなって、ぐらりと視界が揺れる。
酒はもうとっくに抜けた筈なのに。
キスされてから、自分の中の何かが揺れていた。
こんな感覚、嫌いだ。