第9章 >>7 唐突な件
「はーい。逃げない逃げなーい!」
ぐっと足を掴まれ、勢い良く引かれる。
同時にその場に倒れ、受身の取れない僕は、床に顎を打ち付ける。
口の中が鉄の味になる。
唇を噛んでしまったようだ。
「聞きたいんだけど、この近辺のカラーギャング狙って悪戯してるクソガキって…お前?」
髪を掴まれ顔を上げられた先には、深い深い闇の様な二つの目。
「あんまり乱暴すんなよ…!」
庇うかの様に、その男の腕を掴む岩泉の手。
うるさい離せと言わんばかりに、その男は岩泉を睨む。
『ぼ…くはっ…何も……!』
本当に身に覚えが無いのだ。
彼らが言う、カラーギャングなんて。
髪の毛がぷつん、ぷつんと抜けている。
その度に、何とも形容し難い自分の中の《女性》が汚されてる様で、きつく唇を噛み締めた。
「……それは本当だよ。」
及川は、安堵した様に、また何か手掛かりを無くしたからかつまらなさそうにそう呟く。
「ッチ…んだよまた振り出しかァ。」
小さく舌打ちをした男は、ぱっと手を離し、コートから煙草を取り出した。