第7章 >>6 友情努力勝利は無意味な件
特に何かを聞かれる事も無く、暫くお互いを見ていた。
ふと鳴る及川のスマホ。
それを確認すると、いそいそと彼らは身仕度を始めた。
着崩したスーツを脱ぎ、新しいスーツに着替え、及川は髪を綺麗にセットした。
何が始まるのか、何処かへ出掛けるのか、頭の中で色んなパターンを想定する。
「さて、ちゃん。」
及川は相変わらず爽やかな笑顔でこちらに声をかけてきた。
手にはスマホを持っており、そのスマホには《川西》と宛先に書かれていた。
「いや、キチィちゃんって呼んだ方が良いかな?」
全くの想定外。
まずい。
何でこの短時間で自分の正体がバレたのか、何で川西という奴からの連絡が来てから空気が変わったのか、何でこいつらは僕を捕まえようとしてるのか、心底どうでもいい。
ただ今は全力で走る。
玄関に向かうが鍵が開かない。
ガチャガチャとドアノブを何度も何度も動かして、押して引いてを繰り返す。
『何でっ…!』
「オートロック。その様子だと、本当にキチィちゃんなんだ。」
及川は冷たくそう告げると、後ろの廊下から現れた。
「お前と話がしたいだけなんだ!逃げないでくれ…。」
岩泉は申し訳なさそうに、悲しそうにそう言う。
『僕に何の様ですか…帰して頂きたい。』
パーカーのポケットからスマホを取り出し、自宅のセキュリティを全てかけて、万が一の場合大事なデータは削除される様に手を打つ。