第5章 優しい月【うちはサスケ】
「それじゃぁ……また、明日来るね…」
「……あぁ。ありがとな」
夕飯を一緒に食べ終えると、今日もリエに何も言えないまま玄関で彼女を見送った。
ーーー行かないでくれ
そう言えたら、こんなに苦しくならずにすむのはわかっているのに。
リエは優しいから、オレの我儘だってきっと聞いてくれる。
…でも、だからこそ、言えない。
うちは一族が殺されて、あいつがいなくなって、リエも苦しんでいるってこと、わかるから。
あの日以降
リエから、いつもの笑顔がなくなった。
オレの前では辛い顔を見せないで笑顔をつくっているけれど、無理しているのなんか見え見えで、
それがかえって辛くて。
リエの楽しそうに、嬉しそうに笑う顔は
いつもオレを幸せな気持ちにさせてくれたのに。
兄さんは……イタチは
オレから家族や居場所だけでなく
リエの笑顔も奪った…!
でもーーー
こんなにも悔しいのに
こんなにも憎いのに
弱いオレは……何も出来ない。
リエが帰って、静まった家はとても冷たくて。
窓を揺らす風の音に、恐怖を覚えた。
オレは今
ーーーー独りだ。
窓から見える満月が、”あの日”を強く思い出させる。
身体が震えた。
吐き気がする。
殺されるかもしれない恐怖
信頼していた兄に裏切られた絶望
大切な家族を奪われた怒り
いろんな感情が身体中から溢れて
押さえ切れなくて
無意識に、部屋のものを手当たり次第に投げつけていた。
「うわぁぁぁぁ!!!」