第5章 優しい月【うちはサスケ】
どこへ行っても囁かれる陰口に嫌気をさす毎日だった。
ただでさえ毎晩あの悪夢が繰り返し襲ってくるというのに、外に出てもこれだ。
どうやらオレの悪夢は終わらないらしい。
独り遺されたオレへの哀れみの視線。
独りだけ生かされたオレへの疑惑の眼差し。
うちは一族の転落を嘲笑う声。
全てが、癇に障った。
それでも引きこもらずアカデミーに通っていたのは、そこにリエがいるからだ。
朝と晩、リエは毎日オレの家に来てくれて、
飯作りから掃除や洗濯、オレの為に家事全般をこなしてくれていた。
けれど
そのとき以外の一緒にいられない時間が
すごく、苦しくて
リエと少しでも同じ空間にいたくて、
誰にどんな陰口を叩かれても、アカデミーにだけは通っていた。
それなのにオレは、アカデミーではただ遠くからリエのことを見ていることしか出来なくて
心配してくれたリエが声を掛けてくれても、なんでもない顔をして
授業が終われば、一人で帰路についていた。
日課だったアカデミー後の修行も、あの日以来する気が湧かなくて
ただぼぅっと池を眺めたり
どこからか聞こえてくるつまらない笑い声に耳を傾けたりして、時間を潰して
リエがオレに会いに来てくれるのを、ただ待った。
それまですごく長く感じたけれど、
リエが来てくれてからはあっと言う間に時は過ぎて
リエがいなくなるとオレはまた、苦しくてたまらなくなる。
もっと一緒にいたいって
傍にいてくれって
そう言えればよかったのに
オレはずっと素直になれなくて
本当はこんなに弱くて、格好悪いのに
リエにはそう思われたくなくて
……見捨てられたくなくて。
不安を押さえ付けて、毎日を過ごしていたんだ。