第4章 銀狐と少女【はたけカカシ】
空風上忍は俺の殺気に全く怯むことなく、真っ直ぐに俺を見つめてくる。
全てを見透かしているようなその視線が、なんだかとても居心地が悪かった。
「確かに、俺はお前の師でもなんでもない。知った風な口を利くなと思うのは当然だ。でもな、大切な人を守れなかった後悔の気持ちと、己の力の無さに対する罪悪感…カカシがずっと抱えているものなら、理解出来るからさ」
俺も同じだったからな、と空風上忍は眉を下げる。
「思い出す度に罪の意識に苛まれる。きっと一生、消えることはないんだとも思う。
でも俺にはリエがいるから。あの子が笑っているから、俺も笑って生きていけるんだ」
そう言って、いつもと同じ笑顔を見せた空風上忍は、あの少女の笑顔を彷彿とさせた。
けれど、彼女と纏う雰囲気がどこか違うのは、空風上忍が俺と同じものを抱えているからかもしれない。
「リエは皆の光になれる子だと思ってる。親馬鹿が少し入っているかもしれないけど、俺はそう信じている。あの子の笑顔は、人を幸せにする力があるってな。カカシもそう思ったから、任務を放棄してきたんだろ?」
「……そんなんじゃありません」
俺が否定しても、きっと空風上忍はわかっている。
あの少女と過ごした短い時間の中で、小さな幸せを感じてしまったことを。
俺の罪が、闇が、彼女の笑顔の輝きに消されてしまいそうで、彼女の前から逃げ出したことを。
「これは持論だが…いつ自分が死ぬかもわからないこの世界で生きる俺達忍はさ、命を落とした仲間達の分まで、生きる努力をすること、幸せであろうとすることを忘れちゃいけないと思うんだ。俺はそう思って前を向いて、リエとの時間を過ごしている。失ったものも大きかったが、俺は今、あの子のおかげで幸せだ。
だからお前にもそうあってほしいと思ってさ」
だからわざわざあの少女と俺を引き合わせる為、あんなに強引に任務依頼にもっていったのかと、妙に合点がいった。
「……お節介にも程があります」
俺がそう言うと、よく言われるよと彼はまた笑った。