第4章 銀狐と少女【はたけカカシ】
窓の側に敷かれた布団に少女が寝ている。
前に見たときよりもさすがに大きくなっているが、幼いことに変わりない。
三歳って…どうやって接すればいいんだ?
俺はアカデミーもすぐに卒業したから子供との付き合い方もよくわからないし
それからすぐに中忍になってエグい任務ばかりやってきた。
暗部になった今、子守よりも暗殺の方がまだ簡単な任務だ。
俺が遠目に見ていると、少女はゆっくりと目を開けた。
俺の気配に気付いたのか?
…普段の癖で消していたんだが。
さすがは空風上忍の娘ということか…
「う〜…のどかわいたぁ…」
…と思ったが、違ったようだ。
ふらふらと立ち上がり、少女は台所に向かう。
………ここで手伝うべきなのか?
いきなり声をかけて大丈夫なのか?
警戒されるのも面倒だ。どう声をかける?
俺がそんなことを考えているうちに、少女は台所でコップを取り出していた。
「あ」
熱で力が入らないのか、手に持っていたコップが落ちる。
無意識だった。
「……だぁれ?」
少女の大きな瞳が俺に向けられた。
しまった、と思いつつもここで引っ込むわけにもいかない。
床に落ちる寸前で掴んだコップに水を入れ、少女に渡す。
「…ありがとうございます」
そう言うと少女は、素直に受け取った水をコクコクと飲んだ。
…正気か?俺が誰かもわからないのに。
知らない奴から貰ったものは簡単に信用するな!
自分で渡して何だが、毒でも入ってたらどうするつもりなんだ…。
自分の家の蛇口から出て来た水だから疑いもしないのか?
それともただの、疑うことを知らないいい子ちゃんか?
空風上忍も、そこらへんしっかり教えなてやらなきゃ危ないだろう…
「おとうさんのおともだちですか?」
少女の言葉でハッとする。
余計なことを考えていた。
「……友達ではないが、世話にはなっている。今日だけ、お前の世話を任された」
わざわざ”今日だけ”を強調したが、大人気なかったか…?
しかしそんな俺の気持ちなど微塵も気にする素振りもなく、少女はにっこり笑った。
「ありがとうございます。わたし、空風リエです。よろしくおねがいします」
その笑顔に少しだけ癒されたような気がしたのは…
気のせい、ではなかったと思う。