そしてこの道が続いたら【Mr.FULLSWING】
第1章 ヒロインサイド
かれこれ2週間前だろうか。
いつも通りこうして一緒にお弁当を広げている時、どこからか地響きが聞こえた。
「きゃー!犬飼キューン!」
「お弁当作って来たの!食べてー!」
「今日こそあたしの愛の告白に答えてー!」
地響きの正体は犬飼君とその親衛隊で。
犬飼君はこちらを見る暇もなく、あっという間に廊下を全速力で通り過ぎて行った。
「うわー。犬飼君、ホントにモテるよねー。」
兎丸の感想に司馬もこくこくと頷く。
「本当に、おちおち食事も取れませんよ。」
「おっ、たっつん。」
この日は1人取り残されたらしい辰羅川も来たんだっけ。
「でもあの犬、彼女作らねーよな。」
「いつ出来てもおかしくないっすよね。」
「犬飼君は毎日女性から告白されていると言っても過言では無いですよ?」
3人の意見にあたしの心がざわついた。
あたしは以前から犬飼君が好きだった。
なのにマネージャーであっても全然近寄れなくて。
どれくらい近寄れないかって、他の男性陣は呼び捨てなのに犬飼君だけ君付けで呼ぶぐらい近寄れなくて。
いっつも犬飼君の周りは可愛い女の子ばかりで、あたしには無理だって諦めようと思った。
でも犬飼君を好きって思いは強くなる一方で。
「犬飼にいつ彼女が出来てもおかしくないよな。」
そんなことを聞いてしまったら、あたしは居ても立ってもいられなくなった。
「あたし犬飼君に告白する!」
突然のあたしの決意表明に驚く面々。
「いやまぁ、○○が犬飼のこと好きなのは知ってたけどよ。」
「もみじ、マジで!?」
「僕でも分かるくらい顔に出てるっすよ?」
「子津でも!?」
「あたしも知ってましたよ。」
「凪も!?」
「司馬君も気付いてたもんねー?」
「ぎゃー!恥ずかしい!」
騒ぎ立てるあたしをみんながいじる。
何これ!全員知ってたわけ!?
ポーカーフェイス出来ていると思ってたのに!
「皆様、ご提案なのですが。」
「はぁ!?何!?」
辰羅川がいつものように眼鏡をくいっと上げながら、しかし彼らしからぬ悪戯っ子な笑顔でこう切り出した。
「××さんの恋の応援、我々がしてさしあげませんか?」
そんなこんなで。
「××らしくバシッと告白してこいよ!」
「お邪魔虫は退散しとくから!」
野球部仲良し1年組によるセッティングにより、あたしは犬飼君と2人きりで帰ることになったのだ。