第1章 バレンタインデー【ブン太/跡部/岳人】
『景……ちゃん、帰ったんじゃないの?』
「帰れるかよ、お前から貰ってねぇのに」
『あげないって言ったでしょ?』
「はぁ……ったく、お前は……」
私は素直に渡せずツンっと、そっぽを向いて冷たく言ってしまう。
景ちゃんは呆れた様に溜め息を吐くと、私を自分の方に向かせて顔を近付けて来る。
私の脳は急な展開に付いて行けず、唇にキスされた事を中々気付けないでいた。
漸く彼が何をして来たのか理解した私は、胸の奥でずっとつっかえていた何かが外れる様な感覚が起こり、目尻から涙を流す。
「俺は悠鬼のが欲しい」
『……っ……何で私なの?……別に高くないし、味だって普通だし……』
「お前のには気持ちが籠ってんだろ?……だったら俺はそのチョコが食いたい」
『……ふぇ……絶対好きにならないって思ってたのにッ……ムカつく』
「ふっ……俺様に惚れない女なんて居ねぇんだよ」
『……バカっ』
私達はもう一度唇を重ね合わせた。
私達は言葉よりも態度で示す方が伝わりやすいのかも知れない。
急に面と向かって素直になれる訳じゃないけど、時間と共に解り合えたら嬉しい。
そしたら私も少しは自信を持って、貴方の隣に立てるのかな?
私達はお互いに「好き」と耳元で囁き合い、その日から恋人同士になった。
「何でだよ!」
『ダメなものはダメなの!』
「あの二人、何喧嘩してんだ?」
「付き合うてる事、跡部が全校生徒の前で公表する言うて」
『絶対言ったらダメ!』
「だから何でだよ!」
『んと……あっ!……秘密にして置く方がドキドキしない?……スリルがあって』
「秘密?」
『公表するのはもう少し待って?……私達がもっと恋人らしくなってから、まだ恥ずかしいもんっ……』
「……っ……し、仕方ねぇな……悠鬼がそう言うなら構わねぇよ」
「あの空気うぜぇ……」
「あぁ、部室に居ないで欲しい」
「……うぅ……悠鬼先輩っ」
「まぁまぁ、そう落ち込まんと鳳。相手が悪いわ」
「俺、本気だったんですよ?なのに……」
「悠鬼ちゃんには、可愛い後輩くらいしか見られてへんで?」
「知ってますよ!」
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