第4章 クリスマスor正月【岳人/長太郎/跡部】
そう言って景ちゃんが会場内に響く程にパチンと指を鳴らすと、オーケストラの生演奏でクラシックが流れる。
景ちゃんの周りにはたくさんの女の子達が集まり、他にも徐々にペアが決まって社交ダンスをし始める。
本当に海外映画の中にいる感覚で、男女がクルクルと楽しそうに美しく踊っている。
『亮ちゃん!私達も踊ろう!』
「良いけど、上手くなったのか?」
『もう完璧よ!なんなら私が亮ちゃんをリードしちゃうもんねぇ!』
「言ったなっ、このヤロー」
「悪いがこいつは俺様が先約だ」
『「!?」』
私と亮ちゃんが手を取り合おうとしたところで、間に景ちゃんが割って入って来て阻止される。
いきなりの事で状況を理解出来て居ない私達を他所に、景ちゃんは私の手を掴むと既にダンスをしている人達の中心へと入って行く。
私が戸惑っている間に景ちゃんはこっちを向いて私の右手に手を添え、脇の下にも手を置いてダンスのポーズを取り始める。
『け、景ちゃん!何で?』
「アーン?昨日薔薇渡しただろ?」
『そうだけど……っ……このドレスも……』
「気に入らなかったか?」
『そうじゃないけど……何で私なの?』
「お前の練習の成果を俺様が直々に見てやってんだろうが……有難く思えよ」
『……うん、ありがとう……』
「……」
その程度だよね。
少し期待した自分が凄く恥ずかしくなって、景ちゃんの顔がまともに見れない。
本当なら好きな人に自分を選んで貰えて嬉しい筈なのに、私の胸の奥は景ちゃんに薔薇を貰った日からずっとチクチクと痛い。
「やはり俺様の見立ては間違っていなかったな」
『えっ』
「凄く似合ってる、ちゃんと綺麗だから堂々としてろ……俺が悠鬼を選んだのは何も練習の成果を見るだけじゃねぇよ」
『じゃあ、何の為?』
「……そういう事だ……」
『ちゃんと言ってくれなきゃ解んないよ!』
コソコソとお互いだけに聞こえる様に話していたが、悠鬼は普段の様にケンカ腰で声を荒げてしまう。
「悠鬼が好きだからに決まってんだろ!」
『えっ?』
跡部も釣られて会場中に響き渡る程の声量で告白し、それが全員の演奏もダンスも止めてしまう。
周りがシーンと静まっても二人は気にせず、お互いに躰を離し面と向かい合って口ケンカが行われる。