第4章 クリスマスor正月【岳人/長太郎/跡部】
いつものからかう様な口調ではなく落ち着いた感じの真面目な声色で言われた一言に、驚いて顔を上げると私の目の前にたくさんの真っ赤な薔薇の花束を向けられる。
「受け取れ」
『は?』
「明日の朝、十時に迎えに行かせるから家に居ろよ」
『えっ?ちょっと景ちゃん!どういう事!?』
薔薇の花束を渡された後、景ちゃんは詳しく説明しないままその場を去ってしまった。
驚きを隠せない私は、手に持っている花束に目を向けて眉を下げ、なんだか凄く泣きたくなった。
クリスマスパーティーの当日までに、男子は女子に青い薔薇を一輪渡してダンスに誘う事になっている。
主催者であり自称キングである景ちゃんからは赤い薔薇の花束をやると、全校集会の時に言っていたのを思い出した。
『キザったらしい……っ……』
景ちゃんがどういう気持ちでこれを私に渡したのか分からないけど、明日くらい少しは自信を持って傍に居られたら良いなぁ。
私は暫くの間、真っ赤な薔薇の花束から顔を離せずに居た。
ー翌日ー
「彩條様、お迎えに参りました」
『えっと……まだパーティーには早いんじゃ……』
「えぇ、その前に景吾坊ちゃまから色々ご命令を言い渡されましたので」
『ご命令?』
「彩條様は何もお気になさらず、全て私共にお任せ下さい」
『はぁ……』
昨日、景ちゃんが言った通りの時間に家の前に真っ白なリムジンが停まり、彼の家の執事さん達が私を迎えに来てくれた。
本当に景ちゃんが何をしたいのか分からなかった私だけど、色んなお店に連れて行かれて色々された。
えぇ、本当に色々…
『綺麗っ……』
「景吾坊ちゃまがお選びになったんですよ」
『景ちゃんが?』
エステにヘアサロン、装飾店等々別世界の高級品を取り扱うお店に連れ回され、現在私の目の前にはパーティー用のドレスが一着置かれている。
髪も顔も自分には見えないくらい美しく綺麗にして貰い、マネキンが着ているこのドレスもとても魅力的。
折角綺麗にして貰ったのに、メイドさんに「お着替えしましょう」と言われて私は躊躇してしまう。
「景吾坊ちゃま、二・三日掛けて真剣に悩まれていましたよ?……ふふ、あんな坊ちゃま初めて見ました」
『……っ……』