第2章 バレンタインデー【黄瀬/緑間/青峰】
緑間は顔面を強打し、顔を押えて痛みを堪えている。
悠鬼は慌てて起き上がると、心配そうに彼の顔を伺う。
『真ちゃん!ごめんね?……大丈夫?』
「良いから早く退け!」
『あ、ごめん』
俯せの緑間の上を跨いでいる悠鬼は、指摘されて気付き退くとその場に座ってしまう。
緑間は起き上がって相手の顔を視界に入れると、悠鬼はしゅんと暗い顔をしている。
はぁっと溜め息を吐くと、緑間は相手の手首を掴んで立ち上がらせる。
「ここまで来てどうするつもりなのだよ?……お前の家は反対方向だろう」
『真ちゃん、まだ怒ってる?』
「さっきの事なら怒るのは彩條の方だろう」
『私は嫌じゃないもん……真ちゃんに触られるの』
「……なっ……っ……」
そう言って悠鬼は、綺麗にラッピングしたチョコをグイっと緑間に差し出す。
彼は目を見開いて驚き、チョコと相手を交互に見る。
普段、図々しいくらいの彼女からは想像出来ないくらい不安そうな表情をし、チョコを渡す手も微かに震えている。
『真ちゃんの事好きなの!……受け取って?』
「彩條っ」
『返事は今直ぐじゃなくて良いの!……後でで良いから』
「彩條」
『味見もしたし、お腹壊す事はないと思うから!……んぅ』
緑間の答えを聞くのが怖い悠鬼は、相手の言葉を聞かず一方的にベラベラ喋ってしまう。
それにイラ付いた緑間は、相手の手を引っ張り唇にキスをする。
何が起こったのか理解出来ない悠鬼は、目を見開いて固まりじっと緑間を見つめる。
彼に目尻を撫でられた事で自分が泣いていた事に気付き、悠鬼の目にはどんどん涙が溜まって行く。
「きちんと俺の話を聞かないからなのだよ、そのチョコは貰うから安心しろ」
『どういう事?』
「……だから、そういう事だ」
『ちゃんと言ってくれないと分かんない!……ファーストキスなんだからっ』
「……っ……俺も彩條が好きなのだよ」
緑間の顔は今まで見た事ないくらい真っ赤に染まって居り、悠鬼は裏表のない彼の言葉を直ぐに信じる事が出来た。