第2章 バレンタインデー【黄瀬/緑間/青峰】
緑間が倒れた時、何か柔らかい物に包まれたのに気付き、起き上がったのと同時にそれをガシと鷲掴む。
緑間の視界に入ったのは、悠鬼の柔らかい豊満な胸だった。
驚愕して言葉を失う緑間は、頭を真っ白にして固まってしまう。
「俺が頑張ってチャリ漕いでるのに、悠鬼ちゃんとラブラブなんて……俺、妬いちゃう~」
「なっ!?……お前がちゃんと前を見ないからだろ!」
『真ちゃん大胆~!』
「お前等、二人共煩いのだよ!……もうここまでで良い!」
悠鬼と高尾にからかわれ怒ってしまった緑間は、一人リアカーから降りて先に帰ってしまう。
高尾は緑間を放って置く事にし自転車から降りると、少しシュンと落ち込む悠鬼に近付く。
高尾は相手に目線を合わせる様に屈み、心配そうに悠鬼の後頭部を撫でる。
「ごめんな?悠鬼ちゃん……怪我した?」
『私は大丈夫!……私の方こそ勝手に乗って、ごめんね?』
「それは大丈夫!直ぐに気付いたから」
『へへっ、やっぱりバレちゃってたか……あ、高尾くんにも渡さないと……はい、バレンタインデーのチョコ!貰って?』
「おっ、サンキュー!……本命?」
『残念、義理です!友チョコ?』
「ははっ、ありがたく貰うよ!」
『私の方こそありがとう!……じゃあねぇ!』
「本命?」と少し冗談の様に聞いた高尾。
緑間の後を追って走り去る悠鬼の姿を見て、眼鏡の彼が羨ましくなってしまう。
悠鬼の前では笑顔を見せたが、彼女から貰ったチョコを見て深い溜め息を吐く。
「ちょっと本気だったんだけど……真ちゃんには敵わねぇよな」
悠鬼は既に姿の見えなくなった緑間を、無我夢中で追い掛ける。
今年こそは絶対に渡したい!
この気持ちを伝えたい!
その一心で悠鬼は全速力で走る。
走り続けて緑間の姿が見えて来ると、後ろから勢い良く抱き付く。
「おわ!?」
歩いている最中、ずっと考え込んでいた緑間は後ろの気配に気付かず、悠鬼が抱き付かれたのと同時にそのまま倒れてしまう。