第2章 バレンタインデー【黄瀬/緑間/青峰】
デパートでチョコを買った俺は、悠っちの家まで全速力で走った。
練習でもこんなに走った事なんてなく、息を切らして着いた時には辺りは既に真っ暗になっていた。
「はぁ……はぁ……」
【彩條】と書かれた表札と向かい合い、荒れた息を整える。
自分から告白なんて初めてなので少し緊張もしているが、意を決してインターホンを押す。
「はーい!」と女の子の高い声がし、暫くして悠っち本人が姿を現す。
(良かった、親じゃなくて……)
『あれ、黄瀬くん……どうしたの?』
「これ、悠っちに渡したくてっ……受け取って下さい!」
『!?』
色々告白の台詞は考えていたのに、いざ顔を合わせると言えなくなってしまう。
兎に角チョコを渡そうと両手で買ったチョコを差し出し頭を下げる。
顔は見えないものの悠っちが驚いて困っているのは何となく分かる。
『ほ、他の子から貰ったやつ?』
「んな訳ないでしょ!俺が買ったヤツっス!……俺は悠っちが好きです」
『……っ……』
差し出したチョコを見つめたまま手に取らず、悠っちは首を傾げて小さく問い掛けて来る。
俺の本心を分かって貰いたくて、顔を上げると真剣な眼差しでハッキリ告げる。
悠っちは俺の目をじっと見つめると、少し申し訳なさそうにしながらも俺のチョコを受け取ってくれた。
『ありがとう、私も黄瀬くんに作ったんだけど……少し自分で食べちゃって』
「何でくれなかったんスか?」
『自分に自信がなかったし、何より他の子と一緒にされたくなかったの……その紙袋の中の一つにはなりたくないし……』
「悠っちのは一緒になんてならないっス!……残りのチョコ、俺に下さい」
『そんなっ……ちゃんと作り直すから!』
「良いっスよ、それで。悠っちから貰えるの、今日一日中凄ぇ楽しみにしてたんスから」
『……っ……黄瀬くん……ごめんね、私のも受け取って?』
悠っちの瞳は段々潤んで来てしまい、俺が優しい口調で今日をどれだけ楽しみにして居たか本心を告げる。
別に責めてる訳じゃないっスけど、悠っちは泣きながら謝って来る。