第1章 あの日
雨が降り出した。
カラ松は白いバラの花束を抱えている。
彼は今、郊外にある霊園に来ている。
カラ松はマツフィーヌの眠る場所で立ち止る。
「よお、マツフィーヌ。俺のスイートハニー。元気だったか?」
カラ松はバラの花束を静かに捧げる。
「このバラは、お前の好きな花屋で買ってきたんだ。」
そう言いながら墓石を優しく撫でる。
「この花は枯れてしまうが、お前の美しさは永遠に変わらない・・・」
カラ松はマツフィーヌを亡くした日を思い出す。
あの日も雨が降っていた。
突然の報せに、カラ松は呆然と雨の中に立ち尽くしていた。
「そういえば、葬式の時も雨が降っていたな。お前を亡くした悲しみに天も耐え切れなかったんだろう・・・」
しとしとと降る雨の中を、マツフィーヌが出棺されていったことが何故かさみしかった。
「カラ松、大好き!ずっと一緒ね!」
そう言ってくれたマツフィーヌの声を、カラ松は最近すぐに思い出せない。
溢れる笑顔はすぐに蘇るのに。
「お前の声、録音しておくんだったな・・・」
誰かが「声から忘れるんだよね」と言っていた。
それを聞いた時は、「俺は絶対にマツフィーヌの声は忘れない」と思っていたが、時間には抗えないのか。
カラ松は手が濡れて冷たくなるのも構わずに、墓石を撫で続ける。
「マツフィーヌ、いつまでも一緒だぞ。ずっとお前と俺は一緒だ。」
もう涙は枯れたと思っていたが、こうしてマツフィーヌと向かい合っていると、少しずつ涙がこぼれてくる。
「なあ、俺達はずっと一緒だぞ。」
早くマツフィーヌの傍へ行きたい。