第8章 As if walking slowly(黄瀬涼太)
その後、ふたりで産婦人科に行った。
もう9週を過ぎていて、心拍確認もできた。
出産予定日は来年の1月になりそうだ。
そのまま息子を実家に迎えに行ったが、まさかの「ばーばんちにお泊まりしたい」発言。
久しぶりに皆と遊べたのが本当に楽しかったらしく、テコでも動かない様子に、今日はこのまま実家で面倒を見てもらう事にした。
車に着替えを常備してて良かった。
自宅に戻ると、なんだか不思議な感じだ。
「家族三人になってから、夜ふたりきりになるのは初めてだね」
「オレも思ってた。チビが一人いないだけでこんなに静かになっちゃうんスね」
「ふふ、なんだか寂しいね」
あの小さな生命体の存在感に驚きながら、リビングへと戻った。
「コーヒーの匂い、ダメみたいっスね」
「うん……ごめんなさい、最初の妊娠の時と全然違うから、ピンとも来てなかった」
同じ腹だというのに、こんなにも違うものなのか。
一人目と二人目じゃ何もかも違う、と言っていたチームメイトを思い出した。
温かい飲み物はやめておいて、冷やしてあったルイボスティーを飲む事にする。
「辛かったら横になってていいんスよ」
「大丈夫だよ、ありがとう。涼太、お腹空いたでしょう。今作るから」
「ちょーいちょい待って! いいから! 腹減ってないし!」
ソファに鎖で繋いでおかないといけないだろうか。
すぐ働こうとするんだから。
「そんなこと言って、もう夜だよ。お腹空いてるんじゃない?」
「いやオレも今、なんというか、胸いっぱいな感じなんスわ」
それは全くウソなんかじゃなくて、みわが妊娠検査薬を使ったあたりからもうなんか、みぞおちから上がポワーンってしてる。