第8章 As if walking slowly(黄瀬涼太)
みわが洗面所で口をすすいだあと、オレ達はリビングへは戻らずに再び寝室へと入った。
ベッドへ腰掛けたみわは、肩を小さく丸めて落ち込んでいる。
「ごめんなさい、吐いたりして……自分でもびっくりしてる」
「……みわ、今月、生理来た?」
「うん……? まだだけど……あ、そろそろ、かな?」
部屋に置いてある卓上カレンダーが、4月のまま捲られていない事に気付く。
「先月、いつ来た?」
「えっ……と……」
4月の入園式のバタバタが終わってすぐ生理痛で苦しんでるのを見たけど、アレ、そのあとは?
5月は泊まりで家を空ける事が多かったからその時期に来てたのかと思ってたけど……。
「先月……なんだか毎日バタバタしてて全然覚えてない。手帳に書いたっけ……」
確かに、連休もどこにも行けずにいたしオレもいない事が多くてほぼワンオペ。
いつもならうちの実家だったりみわのおばあさんの所に行ったりするところを、この感染症のせいでロクに外出も出来なかった。
毎日子どもと朝から晩まで家でずっと二人きりで、いっぱいいっぱいだったんだろう。
「みわ、それさ……妊娠、してたりなんて」
自分でも、この言い淀みっぷりが笑える。
男のオレが介入出来ない生命の神秘だから、なんか気軽に言えなくて。
「あ……えっ、あっ……?」
ずっと家族計画は夫婦の中にあったものの……去年からこんな状態だったし、ストレスになるようなものはやめようってこともあり、タイミングを見たりするのは一旦お休みしてた。
とは言え、セックスしない訳じゃないから、たまたま今回、出来たってコトなんだろうか……。
なんか本当に、キセキだな。
作ろうと思ってた時は全然うまくいかなかったのに。