第8章 As if walking slowly(黄瀬涼太)
「いや、そういうんじゃなくて、疲れが出たんだと思うから」
『やだ、それも大変じゃない。じゃあさ、こんなのはどう?』
「え? ……あ、うん、うーん、ありがと、ちょっと相談するスわ」
相変わらず物凄い勢いの姉からの電話を切って、みわに向き直る。
「大丈夫? お姉さん、急ぎの用だったの?」
「ん、いやー、みわ達に会いたいから連れて来いってさ」
「そうだよね、去年も全然お会い出来てないし……寝てる場合じゃないよ」
むくりと起こした身体を押し返して、薄い掛け布団をかける。
「いや、みわがちょっと本調子じゃない事話したら、子ども実家で預かるからちょっとくらいゆっくりしろーって」
「え」
みわの表情に、ありありと迷いが出た。
その気持ちは手に取るように分かる。
こんな情勢だし息子はまだ小さいしで、預けてもいいものか悩むよな……。
うちの実家とは全く会ってないわけじゃなくて、ちょいちょい母親も姉もうちに顔出したりしてたし、ワクチン接種も終わったらしいからそんなに心配することないかなとも思うんだけども。
「んじゃ午後、病院行く間に見ててもらおっか。病院連れてくよりは安心じゃないスか?」
「えっ、もし行くとしても病院は一人で行けるよ」
「いや、途中で倒れられたらたまんねぇスわ。オレも行く」
うぐ、とみわの声が聞こえて来そうだ。
オレがこう言い出したら折れないのは、みわが一番よく分かってる。
「甘えちゃって……平気かな」
「そのための家族でしょ」
うちの家族は皆みわが大好きで、本当の娘のように思ってる。
でもやっぱり彼女の性格からして、気を遣うよな。
それからゆっくりふたりで話して、実家に甘えることに決めた。