第8章 As if walking slowly(黄瀬涼太)
でも、みわの言いたいことも分かる。
ただでさえ混んでいる病院が、今は感染者の受け入れやらワクチン接種やらで大パニックだ。
……オレはどちらかと言うと、目に見える風邪とかの症状がないならまずは心療内科でもいいんじゃないかと思ってるんスけど……。
みわは、マジで頑張りすぎ。
いや、そうさせてしまったオレの責任だから余計に申し訳ない。
症状が悪化する前に早く病院に行って欲しいんスけど……なんと言おうと今日、午後に連れて行こう。
今はちょっとしんどそうだから、少し寝てからの方がいいかもしれない。
「水、持って来ようか」
「……ありがとう、飲みたいな」
「なんか食べたいモン、ないっスか?」
「今はあんまりお腹空いてないかな」
「ん、じゃあ腹減ったらなんか作るから言って」
なんか、食べやすいものがあった方がいいか。
ゼリーとか?
自身が健康優良児すぎて、具合が悪い時のレパートリーがあんまない。
「……ごめんなさい、涼太」
立ち上がったオレに向けられたその言葉は、さっきよりもずっと小さい。
「なに、どしたんスか」
「お誕生日、なのに……」
「そんな事気にしてたんスか? 気持ちだけで十分っスよ」
下がった眉にキスを落としてから、キッチンへ向かう。
冷蔵庫を開けると、下拵えを終えた材料たちが、寂しそうに佇んでいる。
多分これも、負担になってたんだろう。
何日も前から色々考えて、準備してくれたハズ。
もういつも一緒に居るんだから、顔見ておめでとうって言ってくれるだけでいいのに。
今日を迎えた0時に、満面の笑みでお祝いの言葉をくれたあの時間だけで、オレは幸せなんだって。