第8章 As if walking slowly(黄瀬涼太)
子どもが幼稚園に通いだすと、生活リズムもガラッと変わる。
どこにも遊びに行けないゴールデンウィークが終わり、次は梅雨入りかなんて言っていた辺りから、彼女は小さな不調を訴えることが増えた。
まず、それ自体が物凄く珍しい。
というか、初めてじゃないか?
普段、みわはなかなか弱音を吐いてくれない。
顔色に出てしまうほど具合が悪そうな時ですら、オレが声をかけて無理矢理休ませる有様だ。
そんなみわが訴えてくるのだから、相当調子が悪いんだと思う。
今は、基本的にオレが家にいる間は彼女には何もさせていない。
それでも無理して動こうとするから、休ませるのにも一苦労だ。
この感染症が蔓延するまではなかなか家に居られなかったから、何かと任せっきりだった。
家は自分が守らなければと、ずっと抱えていた責任が重すぎたんだと思う。
なんでもっと早く気づいてあげられなかったんだ。
今朝、ちょっと目が回るかもと言ったからすぐに寝かせようとしたけど、ソファで大丈夫と貫き通されてしまった。
「みわ、やっぱ病院行こう」
「平気だよ。最近よくあるの。少し休めば治るから……ごめんね、朝から」
「そんなのはいいんスよ。よくあるなら余計に行った方がいいじゃねえスか」
「うん……でも、こんな時期だし、病院にはあまり行かない方がいいかなって……」
咳が出る訳でも、鼻水が出る訳でも、高熱が出る訳でも、頭が痛い訳でもないようだ。
彼女を襲う不調の原因は、精神的なものかもしれない。
それなら、なおさら早いうちに連れて行きたい。