第8章 As if walking slowly(黄瀬涼太)
真面目で誠実な人間というのは、そうでない人間よりもずっと多くのストレスを抱えて生きているようだ。
そんな事を考えながら見上げた空は、対照的に雲が少ない。梅雨時には珍しい晴天だ。
グレーの雲は明るい気持ちまで隠してしまいそうな気がするから、晴れてくれてホッとした。
今日はオフで、息子を幼稚園に送って行った。
妻のみわは、オレが子連れで外に出る事をものすごーーく心配していたが、オレはさほど気にしてない。
確かに、"黄瀬涼太"に記者が張り付いてる時期もあったけど、どこを撮られてもシロだし、特にスクープも撮れないと察したのか、日に日に目に見えて減っていくのが分かった。
他人の家庭事情に、そんなに興味があるもんなんスかねえ。オレにはよく分かんないスわ。
昨年からの、世界中を巻き込んだ感染症問題はまだ解消に至ってない。
それでもたった一年でワクチンが接種出来る様になったんだから、本当に世界は頭の良い人間で作られているのだなと実感。
幸いにも、オレの周りで感染した人は今のところはいないようだ。
人間というのは、長い期間の抑圧に耐えられないのだろう。
どことなくこの世間のムードに慣れてしまった感もあり、自粛も予防も去年より緩んでいる気がする。
確かに、ずっと張り詰めたままじゃ切れちゃうよな。
……みわみたいに。
うちの嫁さん、昔っから真面目が服着て歩いてるみたいな子で、頑張って頑張って無理をしてしまうタイプ。
周りが緩んでも、彼女が油断をすることはなかった。
この一年間、家事に育児にとそれだけで大変なのに、息子が幼稚園に入園するという大イベント。
終わらない感染対策と拭えない不安を抱えながら……ついに、体調を崩してしまった。