第2章 unconfident(氷室辰也)
約束の時間より30分も早く着いてしまった私は、待ち合わせ場所である、駅前の時計台でスマートフォンを弄りながら彼を待つことにした。
「オネーサン、ひとり?」
聞き覚えのない声に、顔を上げる。
氷室さんとは対照的な、締まりのない顔と声の短躯の男だった。
「……待ち合わせです」
絡まれても面倒臭い。
こんなの、無視無視。
すぐに、視線をスマートフォンに戻す。
しかし、相手はめげる事なく、あれやこれやと話しかけてくる。
スマートフォンに落とした目線を上げる事はせず、ひたすら無視した。
「おい、シカトかよ。調子乗ってんじゃねーぞ」
「きゃ……!」
私の一貫した無視の態度が気に食わなかったんだろう。
突然手首を掴まれて、引っ張られた。
履き慣れないヒールのせいもあってか、バランスを崩してしまう。
視界が傾いて……そこで、止まった。
「俺の女に何の用かな」
言葉尻こそやんわりとしているけれど、
いつもの柔らかくて優しい声ではない。
試合の時のように、熱い声でもない。
冷徹。冷酷。非情。
そんな言葉がぴったりと思ってしまうほど、冷たい声。
私を抱き留めた腕は、ピクリともしない。
「氷室さん……!」
「ケガはないかい? みわ」
「は、はい、私は大丈夫です」
男は、突然現れた氷室さんに、完全に圧倒されている。
当然だ。
黒のジャケット姿にチノパンという、いたってシンプルな姿なのに、美しすぎる。
芸能人と言われても、皆信じるだろう。
このひとの隣じゃ、どんな美女でも霞んでしまうんじゃないだろうか。
ズキン、胸の痛みには気がつかないフリ。
その常識外れの美しさを纏いながらも、表情は怒りを露わにしている。
ゾッとする程の迫力。
「オニーちゃん、そんなオンナのどこがいいわけ? デカくてもさくて、俺なら恥ずかしくて街を連れ歩けないね」
デカくて、もさくて。
その言葉がグサリ、胸に刺さる。
分かってる、そんな事。
つりあわないって、誰よりも分かってる。