第6章 Stay Home(黄瀬涼太)
「映画、涼太観たいのある?」
「んー、最近観てなかったし、今日はアレにしないっスか」
「うん、久しぶりだね、賛成」
今夜は、契約している定額制動画配信サービスの中から探すのではなく、"アレ"……私たちのお気に入りで、珍しくBlu-rayのBOXまで買った恋愛映画を観る事にした。
結婚前にふたりで映画館に観に行った作品で、ただ恋愛をしているだけではなく、ミステリー要素があったり人間関係で考えさせられるようなシーンがあったりで、見所満載。
情景も美しくて、セリフも優しくて、なんだか気持ちがホッとする。
恋愛映画をあまり観ない私たちだけれど、これはもう何度も繰り返し観ているお気に入りの映画だ。
こうして横並びになってお酒を飲むのもとっても久しぶり。
この状況になってからは、楽しむのもちょっと遠慮気味になってしまって。
不安な毎日で気力が不足してしまっているのも勿論だけれど、やはり自分たちだけ楽しい思いは出来ないかなとか考えだしてしまうと止まらなくて。
ぐちゃぐちゃ考えたってどうしようもないのは分かってる……。
そんな時、涼太はいつも私の行く方向を照らしてくれる。
家族の存在に、どれだけ助けられただろう。
映像が再生されて、すぐに涼太の気遣いに気が付いた。
初見の作品だと、世界観やストーリーを掴んだり、セリフを聞き逃さないように……なんて集中しながら観るけれど、何度も何度も観た作品だから、この先の展開が分かっている。
なんとなく、気持ちが楽だ。
そんな風に感じるのなんて初めてで、自分が思っていたよりもずっと参ってしまっていたんだということに気がつく。
すごく穏やかな時間。
外界からの情報は全てシャットアウトして、お喋りを交えつつお酒を飲む。
"いつも"の雰囲気がそこにある。
ああ、かたちのない何かに振り回される日々で、大切な日常を失ってしまっていたのだ。
みんなそれぞれ、流れる情報に不安になったり、先の見えない状況に、知らず知らずのうちに疲労とストレスを溜めているんだろう。
なんでこんなことになってしまったんだろう。