第6章 Stay Home(黄瀬涼太)
『青峰くん、聞こえてますか?』
『片耳聞こえねぇな。イヤホン外すか……』
懐かしい青峰さんの声の後に、ゴトンという音や、ゴーというトンネルの中のような大きな音が響いてきた。
「ちょ、青峰っち、刺さったまんま投げないでくんないスか、うるさいんスけど!」
『よし、これでいーだろ』
「聞いてねえし!」
『黄瀬君、そもそも聞こえてなかったんだと思いますよ』
このやり取りも相変わらずだ。
皆、笑ってる。
なんだか盗み聞きしてしまっているような罪悪感が……このままここにいて、いいのかな。
「緑間っち、音出てなくないスか」
そう言えば、緑間さんの声が聞こえて来ない。
まだ来ていないのかと思っていたのだけれど、どうやらそうではないようだ。
『聞こえませんね。ちょっとチャットを送ってみます』
「なんかすげえ口動いてるけど、こっち何にも聞こえないっスよ、緑間っち!」
『高尾君に操作を聞いているみたいですね』
「相変わらずっスわ……」
少し、眠ろうかな。
お天気が悪いと頭が重くて身体が怠い感じがする……。
『おい黄瀬、今日神崎はいねえの? あ、もう神崎じゃねえな。どっちも黄瀬か』
眠ろうと思った矢先の青峰さんのその質問に、咄嗟に身体を起こしてしまった。
な、なんか凄い恥ずかしい事を言われている気がしてしまう。
"黄瀬みわ"になってからもう何年も経っているのに、未だ慣れる気配は全く無い。
「いるっスよ、今ちょっと休んでるんスわ」
『んだよ、夫婦ゲンカか』
「違うって! うちは超夫婦円満だし!」
『つかお前らってケンカすることあんの?』
『ボクもちょっと興味があります』
黒子くんまで。
喧嘩、しないように見えるのかな、私たち……。
「ん? そりゃもちろんあるっスよ。こないだなんかは、みわが牛乳パックの……」
あああああああ。
私のどうしようもないエピソードが披露されている気配がする。
『みわさんが怒るのは貴重だね』
赤司さんがそんな事を言って笑っている……もう顔から火柱が上がりそうだ。