第6章 Stay Home(黄瀬涼太)
私がオニオングラタンスープを作っている横で、涼太はおつまみを作ってくれている。
大きな手がオリーブやモッツァレラチーズ、ミニトマトにサーモンなどを器用にピックに刺していく。
涼太が作ってくれるものは本当に美味しくて、お酒もどんどん進んでしまうんだよね。
食欲がない時にも、少し口にするとなんだか元気が出るんだ。
私もそんなお料理を作れるようになりたいな……。
そんな事をぼんやりと考えていたら、涼太の鼻歌に混じって聞こえてきたのは、機械の振動音。
ワークトップの端に置いてあった涼太のスマートフォンが着信を告げている。
「お、電話だ……赤司っち?」
涼太は首を伸ばして画面を確認したものの、その手はサーモンを掴んでいるため、すぐに画面をタップ出来る状況ではない。
「押そうか?」
「うん、サンキュ。ちょっとスピーカーにして」
「分かった」
"赤司征十郎"と表示された画面の応答ボタンとスピーカーボタンをタップし、相手の声が聞こえる前に、涼太は口を開いた。
「もしもし赤司っちー、ごめん今手が離せないんスよ、スピーカーでもいいっスか、無理なら後でかけ直すけど」
『いや、そのままで大丈夫だ。忙しい所をすまない』
低すぎず、少し甘めの声。
声は出会った頃のまま殆ど変わっていないから、これだけ聞いていると、なんだか昔に戻ったようだ。
「メシ作ってるだけなんスわ、でもちょっと手洗うから待ってくんないっスか」
『長話ではないんだ。みわさんが聞いてくれていても構わないよ。青峰が丁度帰国しているというからね、少し皆でオンラインで話せないかと思って』
その発言に、思わず涼太と目を合わせてしまった。
珍しい。
彼らが集まる事と言えば、大抵はバスケの集まり。
やっぱり、この状況で皆が変わらず元気にやっているのか心配してくれたのかな……赤司さんは、そういうひとだ。
涼太が口を開く前に、私は大きく頷いた。
彼は逡巡し……目を細めて顔の前で手刀を切るかのように動かした。
唇の動きは"ゴメン"。
それに、私は笑顔で首を振って返した。
私と過ごすのはいつでも出来る。でも、皆とお喋り出来るタイミングなんてそうそうあるものじゃないから。
気にせず楽しんで欲しいな。