第6章 Stay Home(黄瀬涼太)
「泣かせるつもりはなかったんスけど……外にも満足に出られないのに家事に育児にで疲れちゃったっスよね。ごめん」
涼太が謝ることなんて何もない。
私が勝手に、情緒不安定になってるだけだって。
「ちがうよ、そんなんじゃなくて、りょっ、涼太が優しいこと、ばっかり言うからぁ……」
うまく言えなくて、声を出すと何故かもっと泣けてしまって、ひどい涙声のまま首を振ったところで、鼻水までズルズルいいだした。
「大げさなんかじゃないんスよ。みわはいい加減なオレと違って責任感があるから、あれしなきゃこれしなきゃって全部ストレスになっちゃうじゃないスか」
「も、もうほんとに、そんなんじゃないんだって、ちょっとまって」
「みわは自覚なしにストレス溜めちゃうタイプだから、今日はもうのんびりするんスよ。オレもするから」
ああああああ。
このダメ嫁にどうしてこんなに優しい言葉をかけてくれるの。
でもでも今日は違うんだって!
「今日は、涼太のお誕生日をお祝いするんです!」
ひといきで告げたら、涼太はその宝石みたいな瞳をころんと丸くした。
ロマンチックな雰囲気とか全くないけど。そしてそれはいつも全部私のせいなのだけれども。
「涼太さん、お誕生日、おめでとうございます!」
珍しくころころになった瞳は、ゆるりと形を変えた。
「ぶっ、ごめんごめん、ありがとう」
肩を揺らして笑った後、大きな手は私の頭をぽんぽんと撫でた。
「んじゃ〜ちょちょいと作るっスかね」
涼太が、いつもの雰囲気に戻してくれた。
そうだ、気持ちを切り替えて、涼太が提案してくれたふたりの時間をめいっぱい楽しんで貰おう。
「ありがとう……私もスープ、仕上げちゃうね」
ティッシュでぐしぐしと鼻を拭って、もはや習慣と化した消毒作業を済ませてから鍋に向かった。