第6章 Stay Home(黄瀬涼太)
「みわのオニオングラタンスープ、美味いんスよねぇ」
「そう言ってもらえると嬉しい。ありがとう」
どちらかと言うと和食が得意な私だけれど、涼太の好物だけはなんとか上手にならねばと、何度も作ったオニオングラタンスープ。
美味しいって言って貰えると、本当に本当に嬉しい。
その笑顔が、見たいから。
……でも、ワンパターンになってしまうのは反省。
もう付き合いも長いんだもの、私も成長しなければ。
「んじゃさ、これはオレのワガママなんスけど」
「なあに? なんでも言って」
涼太が我儘を言うなんて珍しい。
いつも我慢してくれている彼に、出来る事ならなんでも叶えてあげたいけれど……。
「今日はいつものバッチリ栄養食も豪勢なディナーもお休みにして、みわのオニオングラタンスープとおつまみで、映画観ながら酒でも飲まねぇスか?」
「えっ」
「あ、勿論ダメならいいんスけど」
これは、涼太が気を遣って……くれているんだよね?
涼太はいつも私に甘いから。
「ダメなんかじゃないよ、でも折角のお誕生日だから」
折角のお誕生日くらい、頑張らなきゃだもん。
折角の……
「うん、折角の誕生日だからさ、みわとのんびり過ごそうかなって思ってるんスよ」
涼太はワインセラーの中を覗いて、今夜のお供を吟味している。
私はワインには詳しくないから、大体いつも涼太にお任せしてしまっているのだよね。
「今日はみわと出逢った年のボルドーにしよっかなぁ」
ふたりが出逢った年……懐かしいな。
まだ高校1年生だった。
まさか涼太と結婚することになるなんて。
あの時の私が聞いたらひっくり返るだろう。
「いいスか?」
「うん。私は勿論、いいんだけど……」
あの時からずっと彼に守られて、愛されて、幸せばっかり貰ってるんだ。
涼太に、お返ししたいのに。
「みわ、いっつも頑張ってくれてありがとう。今日は一緒にゆっくりしてくんないスか」
その柔らかい声音に、おひさまみたいな微笑みに、再び目の前が霞んでくる。