第6章 Stay Home(黄瀬涼太)
『じゃ、そろそろ解散するか。家族団欒を長々と邪魔しちゃわりぃしな』
『じゃあ最後に我らがエースへ、バースデーソングを贈ろうじゃないか』
森山先輩のその提案で、画面の向こうからはハッピーバースデートゥーユー、の歌声が。
笠松先輩はギターを弾いてくださっている。
息子がそれに合わせて手を叩いて、一緒に歌ってる。
「かっぴばーすでー、つーゆー!」
涼太もそれを聞いて、にこにこだ。
なんて幸せな空間なんだろう。
なんか、幸せすぎて涙が出て来る。
ぐっと堪えて、通話を終えた。
「はー、面白かった。みわ、ありがとね……って、大丈夫っスか?」
通話終了とともに、抑えていた涙がぽろぽろとこぼれ出す。
なんだか胸がいっぱいで、止まらない。
「ごめん、なんだろ……なんか楽しくて幸せで、なんか涙が」
この数ヶ月間張り詰めていたものが、ぷつんと切れてしまったかのようだ。
完全に情緒不安定である。
「なぁに可愛いこと言ってんスか」
覗き込んできた涼太は、指でそっと私の目尻に触れて、そのまま……唇を合わせた。
「まっ、て涼太」
息子が部屋の端でブロック遊びをしているのが見える。
涼太の陰になって見えないのは分かっているけれど、なんだか少し気まずい。
「ん〜? ちょっとだけだって」
「あっ、ん」
ワンピースの裾から這い上がって来た手は、胸に触れた。
「ちょっ、と、ソーシャル! ソーシャルディスタンスです!」
「オレたち家から一歩も出てない、おまけに夫婦なのにダメなんスか?」
「かっ、感染確率がゼロでない以上、だめっ」
ガイドラインはどうだったかとかいろんな事が一瞬で頭を駆け巡ったのだけれど、やっぱり今はだめ!
……するのだって、ここ数ヶ月はずっと我慢してたんだもの。
涼太もそれは分かっているからだろう、ちぇーと言いながらもすんなり引いてくれた。