第4章 Happy Happy yellow(黄瀬涼太)
「あー、ハラいっぱい。めちゃ幸せっスわ……ごちそうさま」
「いつもワンパターンでごめんね。お粗末様でした」
「あ、いいよオレやるから」
お皿を重ねようとする細い手を、思わず掴んだ。
細い。元々線が細いタイプだけど、また痩せたんじゃないか。
「大丈夫だよ、ありがとう」
「いいって、座ってて」
すかさず立ち上がり、みわの両肩を掴んで立ち上がらぬよう固定する。
暫く問答していたが、ようやく諦めてくれたのを確かめて、キッチンへと食器を運んだ。
この間黒子っちに貰った美味しい緑茶を淹れながら、冷蔵庫を開ける。
最上段に、背の高い箱が入っているのを見つけた。
「これ、食っていいんスか?」
「あっ、ごめんなさい私が出さないと、あっ」
慌てて立ち上がった彼女を制止して、取り出した箱を早速開けると、中には宝石箱のようなタルトが収められていた。
苺に桃にバナナ、さくらんぼにオレンジ、キウイやマンゴー、ドラゴンフルーツまで。
「おお、うまそ」
「これがいいって、指差してくれたの」
「一緒に選んでくれたんスね」
ベビーカーを押して、微笑みながら選んでくれたであろうその姿を想像して、説明出来ない感情に頬が緩む。
箱を覗き込んでる間に隣に立ったみわの腰を抱いて、そのまま唇を重ねた。
「ん……っ」
行ってらっしゃいとおやすみのキスは毎日するけど、こんなにまともにするのは久々かもしれない。
柔らかく絡まる唇に、抑えていた欲が沸き上がって来るのを感じる。
付き合っていた頃に感じた愛しさとはまた種類が違う。
当時はなんていうか、爆発力があったけど、今は地の底からゆっくりと表面に浮かび上がってくるみたいな。
みわを愛していることに変わりはないけど、年々抱く想いの性質が変わってくる。
これが、年を重ねるってコトなんスかね。