第4章 Happy Happy yellow(黄瀬涼太)
「寝てる?」
目の下をうっすらと黒くしたみわは、いま蕾が開いたばかりの道端の花のように、優しく微笑みながら頷いた。
母であるみわは、夜泣きの対応でゆっくり眠れる日がまだまだ少ない。
オレがいる時なら代わってあげられるけど、仕事や試合があるとなかなかそうもいかなくて。
そう、これは、みわに対する質問じゃなくて……姿が見えない我が子へ。
リビングにある濃茶色のドアをゆっくりと開けると、床に敷かれた小さな布団の端っこに、これまた小さな身体が。
ただいまと心の中で呼びかけながら、足音を殺して布団際へ。
覗き込むと、ほっぺたを完全に布団に預け、まるで両手の平で頬を挟んだ時のような可愛い寝顔に、思わず笑みが溢れる。
この寝顔、涼太にそっくりだとみわは笑うけど、オレはみわにそっくりだと思ってる。
今度、並んで寝てるところを絶対に写真におさめてやる。
後ろをついてきていたみわと目が合って、笑って。
そっと頭を撫でて、安眠を邪魔しないように、その場を離れた。
「はー、毎日思うんスけど、可愛すぎないっスか」
「可愛いよねえ」
昔と変わらずころころと笑ってくれているけれど、その表情には疲れが見える。
「ごめんね、寝てて良かったんスよ」
普段なら息子が寝ている時間が唯一の休憩時間だろうに、キッチンに立ち続けていてくれたのは、オレの誕生日だからだろう。
「大丈夫だよ。今日ね、お買い物に行ったから疲れちゃったのかも。結構長く寝てるよ」
相変わらず、自分の事は二の次だ。
ことあるごとに注意するけど、やはり長年身に付いた習慣というのは、簡単には変わらないらしい。
イベントの時には必ず作ってくれるオニオングラタンスープを始め、栄養バランスバッチリの食事がテーブルに並ぶ。
みわのメシ食うと、ホントに元気満タンになるんスよね。