第4章 Happy Happy yellow(黄瀬涼太)
「おかえりなさいませ」
住み慣れたマンションの自動ドアを抜けると、そこにはいつもの顔。
「お疲れさまっス! 荷物、来てたんスよね」
「はい、こちらでございます」
カウンターに置かれたのは、小さめの小包。
そこに書いてある名前にほっこりしながら、管理簿にサインをした。
ウチのマンションは荷物をコンシェルジュが受け取る決まりになっているから、再配達の手間が無い。
まあ、決まりとはいえ、大きな家具などを購入したりした際に家の中まで搬入してもらいたいという希望がある場合は、事前に申請しておけば、絶対に無理ということもないようだが。
何があるか分からないこの物騒なご時世、やはり大切な妻と息子を置いていくとなると、セキュリティは厳重にしておくに越したことはない。
それに、事前にメッセージアプリのアカウントを登録しておけば、荷物が届いた際に連絡をくれる。
インターホンを鳴らされて昼寝中の子どもが起きてしまった……なんてこともなく、安心だ。
「なんスかねえ」
エレベーターホールで思わずひとりごちて、小包の伝票に目を落とす。
差出人は、小堀センパイ。
毎年、海常時代のセンパイたちからこうやって贈り物が届くのだ。
大体、差出人は小堀センパイか2年生のセンパイ達だ。
笠松センパイなんておーざっぱだから、こういう手配とかすんのは苦手そう。
子どもが産まれるまでは皆で集まって飲んだりしてたけど、今年は気を遣ってくれているのか。
センパイたちらしいな。
なんだかんだ、オレはいつも甘やかされてたから。
エレベーターを降り、自宅への廊下を歩く。
作りだけは無駄に立派な門扉を開け、ICカードで解錠すると、鼻を擽るのは空腹感を加速させる香り。
今までなら大声で「ただいま!」と叫んでいたけど、今は小さな声で呟いてから、静かな廊下を進む。
ドアを開けると、キッチンに立っているみわと目が合った。
「おかえりなさい」
「ん、ただいま」
この挨拶を交わすのも、何回目だろう。
毎日同じ相手、同じ言葉なのに、なんでこんなにも幸せな気持ちになるんだろう。