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【黒バス:R18】with gratitude

第3章 Sweets in the rain(紫原敦)


「すみません、本当に何から何まですみません」

カウンターに置かれたホットチョコレートに口を付ける前に、深々と頭を下げた。

「何も謝る必要なんてありませんよ。お酒も料理もお口に合ったようで何よりです。無事にホテルに辿り着けるか心配しておりました。紫原からも連絡がなかったので」

その名前に、心臓が口から飛び出すかと思った。
マスターにお願いされて、ついてきてくれたのかな。
責任感の強いタイプなんだ、敦……なんてもう、呼んだら失礼だな。紫原さん。

「あの、こちらの店員さんですよね、紫原さん。昨日、ご迷惑をお掛けしてしまって、彼にもお詫びを……」

そこまで言って、言葉を詰まらせてしまった。
色々な感情が押し寄せてきて、言葉にならない。

「……紫原とは、昨晩の内に別れましたか?」

もういいトシした大人なんだから、上手く躱さないと……そう思ったのに、勝手に顔に熱が集まっていく。

「……下世話な質問で恐縮ですが、朝まで?」

顔を上げられない。
それが肯定を意味する事は、問いを投げかけたマスターが一番よく分かっているだろう。

「……そうですか、やはりアメジストの御加護でしょうかね」

「……へ?」

アメジストの、御加護?
マスターの言っている意味が、全く分からない。
どういう意味?

「申し訳ありません、みわさん。私は少し店の片づけをさせて頂こうと思います」

「あっ、勿論です! むしろお邪魔してしまって申し訳ありません!」

「働きづめで疲れているので、少し独り言が多くなってしまうかもしれませんが、お許しくださいね」

「? ……はい……」

このマスターがこんな風に言うなんて、相当疲れているんだろう。
飲んだらすぐに帰ろう。ここに居たら邪魔になるだけだ。

「……紫原は、素直じゃなくて憎まれ口ばかり叩いて面倒臭がりなんですが、一途な奴なんですよねえ」

まさかの話題に、耳を澄ませてしまう。
独り言、って言うくらいだから、返事はしない方がいいんだろうか。

「紫原と出逢ったのは、神楽坂にあるランコントルという店でした」

「……え?」

神楽坂のランコントル。
私が、元彼とよく通った、行きつけのお店だ。



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