第3章 Sweets in the rain(紫原敦)
「壊れない……って言ったけど……やっぱ、壊しちゃうかも~……」
両腰を強く掴まれて、最奥をノックされているかのように甘い刺激が突き抜ける。
「あん、んっ、お願い、もっと……」
跳ねる身体も、飛び出していく言葉も、制御出来ない。
私は今、このひとが欲しい。
それだけだ。
「んな風に煽って、どうなっても知んないよ~?」
「っああ……」
こんなに乱れたこと、あったっけ。
こんなに求めたこと、あったっけ。
手を伸ばすと、少し汗ばんだ首筋に触れる事が出来た。
うん、この首の太さ……鍛えてるひとだ、間違いなく。
どくんどくんと脈打つ頸動脈の気配に、不思議と気持ちが落ち着く。
「何そのトロけた顔、ヒネリつぶしたくなる……っていうのは冗談だけどさ~……」
もー、と拗ねるように口を尖らせる姿は、本当に子どもみたい。
なんだろう、愛しい。
「いい、よ……潰されたい、かも」
「ちょ、マジでなんなんだし……」
少しずつ早くなっていく律動に、敦の息が弾んでくる。
「く、っ……出る」
「敦……っ」
今、気持ち良くなってくれてるんだ……そう思うと、自分が絶頂を迎える以上の精神的快感に支配された。
彼が最後の時を迎えても、暫くの間抱き合って……気が付いたら、深い夢の中に落ちてしまっていた。
「寝て……た?」
身体を起こすと、朝日が部屋中を明るくしている。
朝だ。
そして、部屋に私以外の気配はない。
夢が、醒めちゃった。
腰の辺りが重たいし、足がなんだか筋肉痛だ。
そりゃそうだよね、あんな体位、初めてだったもん。
……初めての事ばっかりだった。
そもそもワンナイトラブ自体が初体験。
貴重な経験だった、感謝しなきゃ。
見ず知らずの酔っ払いを、たとえ一晩でも愛してくれた。
あの時間、ずっと幸せだった。
……馬鹿げてるでしょ、好きになるとか。
割り切ってたじゃない、今だけだって。
分かってたじゃない。
あんなに足が長いのに、お店に向かって歩く時にふたりの距離は開かなかった。
敦が、私の歩幅に合わせてくれていた証拠だ。