第3章 Sweets in the rain(紫原敦)
……このバスローブには、自分で着替えたんだよね?
きっと下着までビショビショだったんだろう、中は何も身につけてない。
「あ……っ」
大きな手が、バスローブの合わせから侵入して胸に触れた。
性急な愛撫に、身体がビクリと反応する。
慣れてるのか慣れてないのか、全く分からない。
体温の高い手が、ゆっくりと乳房を揉みしだくと、勝手に鼻にかかった声が漏れ出てしまう。
「ん……っ」
「……マシュマロみたいに、ふわふわ~」
「へ、っ?」
マシュマロ?
このガタイの男性から、思いもしない単語が飛び出した。
よりにもよってマシュマロ。
「なんでマシュ……んっ」
「先っぽ、硬くなってきた」
彼も、先程までのゆるい口調よりも余裕がなくなってきたみたいだ。
……興奮、してる?
この大きな胸、普段は肩が凝ったり垂れる恐怖と闘ったりしてて、いい事なんて何もないけど……
彼がこんな風に喜んでくれるのなら、良かったのかも。
……だから、なんでこんな風に考えてしまうんだろう。
元カレに、挟めるって喜ばれてもなんとも思わなかったのに。
暫く感触を楽しんだ後、生温い舌が先端をねぶった。
「んんっ……」
なんか、母性がくすぐられるんだ、このひと。
大きな身体なのに、味わうように乳首に吸い付く姿は小さな赤ちゃんみたいで。
男らしいのに子どもらしくて、掴みどころのない。
「……あぁっ!」
なんでこんなに感じてしまってるんだろう。
初めて肌を合わせるのに。
恋人でもなんでもないのに。
やばい。
やめるなら今しかない、そう思う。
これ、このまま進んじゃダメだ。
沼にハマって、抜け出せなくなる。
「ねぇ……っ、やめ、っ」
私が抵抗を見せると、予想外に彼はすんなりと身体を離した。
だから、どうして。
そんな顔をするの。
長い前髪が隠してくれてると思ってる?
彼の表情から滲み出るのは、戸惑い・後悔・それと……。
無理だよ、こんな関係。
だって私、まだ彼の名前すら知らないもの。