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【黒バス:R18】with gratitude

第3章 Sweets in the rain(紫原敦)


どうしよう。
全く、本当に全く覚えてない。

服は……大丈夫、バスローブをちゃんと着てる。

掛けられた布団から察するに、彼がここまで連れて来てくれた……?

でも、なんで?
だって、私がお店に入ってから、一度も顔を出さなかったのに。

「どうしてって、アンタが帰らないでってロビーで泣き喚いたからだし〜」

……彼の口から出たのは、もしかしたらと思いながらも、可能性として考えたくなかった展開。

その声には元気がない。
きっと、酔っ払いの相手をしてすっかりお疲れなんだろう。

「ご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ありませんでした……!」

急いでベッドから飛び降りて、深々とお辞儀をし……たら、視界が真っ白に染まり、揺れた。

やば、立ちくらみだ。
時々なる、いきなり立ち上がったりすると、頭からスッと血が引いていく感覚。

外じゃなくて良かった……その場で膝をついた……と思ったのに、訪れた感覚は全く異なるものだった。

「……っ、なんなんだし~!」

頭の真上から聞こえる声。
身体を纏うのは浮遊感。

そのまま、次に背中で感じたのはベッドの硬いスプリング。

そして、頬を覆うあったかい……手のひら。

「気持ち悪いなら、寝てろっつ~の!」

「いえ、ちょっとクラっときただけ……すみ……ません」

何、その心配そうな顔。
知らない女に巻き込まれて、もっと怒るとか、迷惑そうにするとか、ないの?

「彼氏にフラれたんだって〜?」

「うっ」

「更に新しい彼女とイチャついてんの、見たんでしょ、ヒサンだね〜」

「……」

「人肌恋しくなる季節なのに、来月のクリスマスはシングルベルなんだって~?」

「ちょ」

待て。
酔っ払いの私、どこまで何を話した?

「それ、私がお話しました?」

「他に誰がいんの」

……穴があったら入りたい。
いや、もう自分で掘って入りたい。

恥ずかしすぎる。顔から火が出そう。

「あの、可能でしたら昨日の記憶は全て消し去って頂きたく……」

「慰めて、欲しいんだよね~?」

「……え?」

視界が、紫色に染まった。


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