第3章 Sweets in the rain(紫原敦)
どうしよう。
全く、本当に全く覚えてない。
服は……大丈夫、バスローブをちゃんと着てる。
掛けられた布団から察するに、彼がここまで連れて来てくれた……?
でも、なんで?
だって、私がお店に入ってから、一度も顔を出さなかったのに。
「どうしてって、アンタが帰らないでってロビーで泣き喚いたからだし〜」
……彼の口から出たのは、もしかしたらと思いながらも、可能性として考えたくなかった展開。
その声には元気がない。
きっと、酔っ払いの相手をしてすっかりお疲れなんだろう。
「ご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ありませんでした……!」
急いでベッドから飛び降りて、深々とお辞儀をし……たら、視界が真っ白に染まり、揺れた。
やば、立ちくらみだ。
時々なる、いきなり立ち上がったりすると、頭からスッと血が引いていく感覚。
外じゃなくて良かった……その場で膝をついた……と思ったのに、訪れた感覚は全く異なるものだった。
「……っ、なんなんだし~!」
頭の真上から聞こえる声。
身体を纏うのは浮遊感。
そのまま、次に背中で感じたのはベッドの硬いスプリング。
そして、頬を覆うあったかい……手のひら。
「気持ち悪いなら、寝てろっつ~の!」
「いえ、ちょっとクラっときただけ……すみ……ません」
何、その心配そうな顔。
知らない女に巻き込まれて、もっと怒るとか、迷惑そうにするとか、ないの?
「彼氏にフラれたんだって〜?」
「うっ」
「更に新しい彼女とイチャついてんの、見たんでしょ、ヒサンだね〜」
「……」
「人肌恋しくなる季節なのに、来月のクリスマスはシングルベルなんだって~?」
「ちょ」
待て。
酔っ払いの私、どこまで何を話した?
「それ、私がお話しました?」
「他に誰がいんの」
……穴があったら入りたい。
いや、もう自分で掘って入りたい。
恥ずかしすぎる。顔から火が出そう。
「あの、可能でしたら昨日の記憶は全て消し去って頂きたく……」
「慰めて、欲しいんだよね~?」
「……え?」
視界が、紫色に染まった。