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【黒バス:R18】with gratitude

第3章 Sweets in the rain(紫原敦)


「ますたー、おかわりっ!」

あぁ、美味しい。
カクテルも目の前のスイーツも、口直しにと出して貰ったチーズもオリーブも。

もう、今日は嫌な事忘れて飲んじゃおう!

「お客様、今日はもう遅いですし」

「んー、まだぜんぜん! だいじょうぶです!」

「もう、終電もなくなってしまいますよ」

「駅前のホテルでも取るんでだいじょうぶです!」

なんにも考えてなくても、ポンポンと言葉が飛び出してくる。
酔ってるなぁ、私。
あぁ、楽しい。
博識なマスターもお喋りの相手をしてくれるし、料理もお酒も美味しいし。

ここ、行きつけのお店にしちゃおうかな。

……あ、でも……
ここは、彼の新しい彼女の家が近いんだった。
また、鉢合わせたら嫌だから……残念だけど、もう来ないかな。
来るならタクシーで入口まで乗り付けるとか? そんな贅沢出来る余裕はないかなぁ。

ぱくり、口に運んだケーキのサワークリームが、優しくココロに沁みる。

もう二度と来れないんだから、ゆっくり味わわなきゃ……そう思ったら、なぜかすごい楽しい気持ちの裏側から、大津波のような悲しみが押し寄せてきた。

この先の楽しみまで奪われてしまうなんて、酷いじゃない。

何がいけなかったんだろう。
私の、何が。

「……う、っ」

だめだよ、だめ。
泣くのはおうちに帰ってから。

そう、思うのに。

「……ひ、っ、く」

涙が止まらないのは、アルコールの所為だ。
酔っぱらってるから。

マスターだって、泣き上戸かなって感じで流してくれる筈。
酔っ払いの戯言だ。

「どうぞ」

マスターがそっと差し出してくれたのは、小ぶりなシュークリームだった。

ふわり、口の中で溶けていくクリームが、何もかも赦してくれるみたいで。

「……何が、いけなかったんだろ……別れたい、なんて、いつから思ってたんだろ……」

「恋人同士に起こる事で、片方だけが悪いなんてこと、ありませんよ」

喧嘩したなんて嘘をついたのに、それを責める事なく、マスターはカクテル・グラスを拭きながら囁くようにそう言った。

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