第3章 Sweets in the rain(紫原敦)
「んん、美味しいっ!」
意を決して口をつけたカクテルは、まろやかで口当たりが良く、でも喉をするりと抜けていくような爽快感。
紫色だからベリー系なのかな……実はベリー系はあんまり得意じゃないんだけど、なんて杞憂だった。
お酒には全く詳しくないけれど、とにかくこれは美味しい!
飲みやすくて、ついついおかわり。
「お客様、こちらサービスでございます」
「へ」
マスターがそう言って出してくれたのは、20㎝くらいのハート型のお皿に乗った、スイーツたち。
市販のお菓子を並べたようなものじゃない。
フィナンシェなんて、間違いなく作りたてだ。
「えっ、サービスって、いいんですか」
「ええ、うちのスタッフが心を込めて作りましたので、お嫌いでなければ召し上がってください」
「わぁ……ありがとうございます。いただきます」
苺のケーキに洋梨のタルト、柿のケーキ。プリンにティラミス。
その豪華さは、お誕生日祝いをして貰ってるみたいだ。
もはや、今日が私の誕生日だということすら忘れてた。
味は勿論のこと、なぜだかとってもココロがあったかくなるスイーツ……。
「美味しい……幸せです」
ぽろりと零れた言葉だった。
さっきまであんなにどん底だったのに。
「幸せな気持ちになるお菓子ですね。作ったひとの優しい気持ちが出てるみたい」
今日は悲しい事も嫌な事もあったけれど、帳消しになっちゃうくらいだ。
……いや、あれだけ嫌な事があったから、今が際立って幸せなのか?
もうそれは、分かんない。
自分のココロですら、分からないものだ。
「あの、作って下さった方に一言お礼を言いたいのですが」
この優しい優しいサプライズに、ちゃんとお礼を言いたくて。
「ありがとうございます。照れているみたいなので、お気持ちだけ私から申し伝えます」
マスターは少しの間、裏へと戻って、間もなく帰ってくると困ったように眉を下げながらそう言った。