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【黒バス:R18】with gratitude

第3章 Sweets in the rain(紫原敦)


「んん、美味しいっ!」

意を決して口をつけたカクテルは、まろやかで口当たりが良く、でも喉をするりと抜けていくような爽快感。

紫色だからベリー系なのかな……実はベリー系はあんまり得意じゃないんだけど、なんて杞憂だった。

お酒には全く詳しくないけれど、とにかくこれは美味しい!
飲みやすくて、ついついおかわり。

「お客様、こちらサービスでございます」

「へ」

マスターがそう言って出してくれたのは、20㎝くらいのハート型のお皿に乗った、スイーツたち。

市販のお菓子を並べたようなものじゃない。
フィナンシェなんて、間違いなく作りたてだ。

「えっ、サービスって、いいんですか」

「ええ、うちのスタッフが心を込めて作りましたので、お嫌いでなければ召し上がってください」

「わぁ……ありがとうございます。いただきます」

苺のケーキに洋梨のタルト、柿のケーキ。プリンにティラミス。
その豪華さは、お誕生日祝いをして貰ってるみたいだ。
もはや、今日が私の誕生日だということすら忘れてた。

味は勿論のこと、なぜだかとってもココロがあったかくなるスイーツ……。

「美味しい……幸せです」

ぽろりと零れた言葉だった。
さっきまであんなにどん底だったのに。

「幸せな気持ちになるお菓子ですね。作ったひとの優しい気持ちが出てるみたい」

今日は悲しい事も嫌な事もあったけれど、帳消しになっちゃうくらいだ。

……いや、あれだけ嫌な事があったから、今が際立って幸せなのか?
もうそれは、分かんない。
自分のココロですら、分からないものだ。

「あの、作って下さった方に一言お礼を言いたいのですが」

この優しい優しいサプライズに、ちゃんとお礼を言いたくて。

「ありがとうございます。照れているみたいなので、お気持ちだけ私から申し伝えます」

マスターは少しの間、裏へと戻って、間もなく帰ってくると困ったように眉を下げながらそう言った。


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