第3章 Sweets in the rain(紫原敦)
「綺麗……」
底に向かってグラデーションになっているのがすっごく綺麗で、思わず見とれてしまう。
この色が崩れてしまうのが嫌で、なかなか口をつけられない。
「これは、なんというお酒ですか?」
「このカクテルに名前はございませんが……そうですね、【紫水晶】にしましょうか」
「紫水晶……アメジストの事ですよね」
「ええ。アメジストは【愛の守護石】とか、【真実の愛を守り抜く石】と呼ばれているんですよ。
愛と慈しみの心を芽生えさせることによって、誠実なパートナーとの出会いや、恋人との絆を深めて、真実の愛を守り抜く強さを育ててくれると言われています」
「真実の、愛……」
走馬灯のように脳裏を巡る、彼氏との想い出。
いっぱい笑った。いっぱい泣いた。
こんな結末がくるなんて、想像もしていなかった。
「恋人さんと、仲直り出来るといいですね」
「……はい」
マスターにこの話はしていない。
さっきの紫の彼に話しただけなのに。
顧客の引き継ぎはちゃんと出来てるってことね……なんて、またよく分からない感想を抱いたりして。
そこで、ひとつの可能性に行き当たった。
彼はもしかして、アメジストの妖精だったのでは?
アメジストの御加護で、ここまで導いてくれたとか……。
……ないわ、ないない。
元々スピリチュアルなものは殆ど信じてないんだった。
御加護どころかバチが当たるって。
「アメジストは、さしずめ恋愛成就へと導いてくれるパワーストーン、という所でしょうか。パワーを充電して行かれて下さいね」
「ありがとうございます……」
「更に、ストレスで疲れきった心を芯から癒し、穏やかな気持ちに導いてくれるパワーを強く持った石でもあるそうです。今のお客様のためにあるような石ですね」
優しい言葉に癒される。
こんな風に心配されたりする事、最近あったかな。
職場ではバリバリ仕事するから、頼りにされてる。
光栄な事だ、認められるということは。
……でも、時々は弱音を吐きたくなる事だってあるよ。
そんなに強くないもん。