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【黒バス:R18】with gratitude

第3章 Sweets in the rain(紫原敦)


「……なんか、懐かしい味」

めんたい味と書かれたお菓子……そうそう、まいう棒。
無邪気に毎日遊んでいた子供時代が懐かしいな……戻りたい。

何にも考えないで済んでいた頃に、戻りたい。

「……は~、やっと止んだし……メンドくさ~」

その言葉で、うるさいまでの雨音が止んでいる事に初めて気が付いた。

ああ、やっと帰れる。
帰ろ。
あっついお風呂に入ろ。

彼は足元に置いてあったらしいビニール袋を持ち上げて、立ち上がった……んだけど。

「でかっ!」

つい条件反射で出てしまった。
立ち上がった彼のあまりの大きさにビックリしてしまったのだ。

身長が高いとかそういうレベルじゃない。
今までの人生の中で出会ったひとたちの中で間違いなくナンバーワンだ。

もしかして、ハーフとか?
いやいや、日本語が達者な外国人?

だって、私の職場にいる男子と言ったら、ひょろりと細いかずんぐりむっくりしてるかのどちらかだもん。

彼はきっと言われ慣れてるんだろう……特になんの反応も示さず、休憩コーナーから出て行こうとしている。

なんか……どこかで会った気がするんだけど、全く思い出せないから気のせいかな。
一昔前のナンパみたいだから、聞くのはやめておこう。

さ、かえろ。
どこかのお店にでも、寄っていこうかな。
なんか、ひとりになりたいようななりたくないような、不思議な気分だ。

なんだかんだ、さっきの彼には感謝してる。
ひとりきりじゃなくて、良かった。

友達と楽しくお喋り出来るような精神状態じゃないけど、家での孤独に耐えられないかもしれない。

こぢんまりとしたバーみたいな店がいいかも。
最近は行きつけの店っていうのもないし、新規開拓、してみよっかな。

前を向きそうになっている気持ちとは裏腹に、足が重い。
雨を吸ってしまったからだろうか、なかなか立ち上がろうという気力が湧かない。

感じられるのは、口の中のめんたい味だけだ。

「うちの店、来れば~?」

もうとっくに去ってしまったと思っていたのに、突然後ろからかけられた声に飛び上がらんばかりに驚いた。

店、って言った?
彼はどこかのお店の店員さんなんだろうか?




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