第3章 Sweets in the rain(紫原敦)
「あなたこそ、ここで何してるんですか?」
「どう見ても雨宿りに決まってるし~」
「……そうですね」
完全にバカな女だと思われているだろう。
結局彼と私、どちらも傘を持っておらず、だからと言って雨が弱まる事もなく、一刻も早く立ち去りたいのに足止めを食っていた。
「……ねえ、その酷い顔、泣いた~?」
ビクリと、過剰なまでに反応してしまった事を自覚する。
その柔らかい口調とは裏腹な言葉に、一瞬詰まってしまった。
「……泣いて、ないです」
きっと化粧もドロドロだろう。
流れたのは雨のせいなのか涙のせいなのか、もう記憶にない。
「彼氏と別れたとか~?」
その言葉は、正に正鵠を射た。
のんびりとした口調のせいなのか、攻撃力が高い。
喉の奥が焼けるように熱く感じる。
「……別れた、っていうか、喧嘩しただけです」
みっともない、その場凌ぎの嘘だ。
フラれたくせに。
更に新しい彼女とイチャついてるのを見せつけられて。
「……ふ~ん」
彼は興味なさそうに、頬杖をついたまま外へ視線を移した。
……質問したのはそっちなのに、どうでもいい返事をするなんて、失礼じゃない。
虚しい気持ちに苛つきが加わって、ココロの中がぐちゃぐちゃに荒れてるのが分かる。
もうひとつスイッチが押されれば、きっと彼に暴言を浴びせるに違いない。
私が感情的になると、いつも面倒臭いという顔をされた。
なんで私が怒ってるかなんて、考えもしてくれなかった。
私も、自分が怒ってるからって、ただ乱暴な気持ちをぶつけるだけだった。
今ならよく分かる。
慣れた関係に甘えて、思いやりが足りなくなってたんだ。
でも今更そんな事に気が付いても、後の祭り。
もう彼は、戻って来ないんだから。
「……ほらこれ、食べれば~?」
「え……お菓子?」
無愛想な彼の手には、小さい頃よく食べた棒状の駄菓子。
手の大きさとは不釣り合いなそれが、なんだか面白くて。