第3章 Sweets in the rain(紫原敦)
ギィコ、ギィコ。
降りしきる雨の中、軋むブランコに乗る妙齢の女。
こわ。オカルトじゃない。
髪の毛はべったりと張り付いてるし、もう子どもは泣くレベルだと思う。
ふふ、不審者がいるって通報されたりして。
ヤケクソ、ってこういう状態の事を言うのかな。
考えないように、って思ってるのに、考えてるのは彼のことばかり。
彼は土日が休み、私は早番と遅番のシフトがある不定期休み。
確かに、すれ違う事も多かった。
でも、仕事を頑張るみわが好きだって、そう言ってくれたのに。
もう、彼の何が本当で何が嘘だったのか、分からない。
全部が嘘で塗り潰されちゃった。
雨は全く止む気配がない。
……丁度、いいかな。
涙も嫌な気持ちも全部全部、流していって欲しい。
やっぱり……一杯飲もうかな。
お酒の力を借りてしまいたい。
こんなに濡れてちゃ、どこのお店もお断りだろうか。
ふらりとブランコを降り、公園の出口へ向かおうとして……屋根があるベンチが目に入った。
鳥籠のような形をした木製の休憩コーナーは、可愛らしくてちょっと非日常感がある。
そして、ベンチに座っている人影に初めて気がついた。
下ばっかり向いていたから、ずっと気がつかなかったんだろう。
雨のせいで視界が悪いからはっきり見えないけれど……え、妖精?
ベンチに、紫色の妖精が座ってる。
いよいよ頭がおかしくなってしまったのかと自分でも不安になったけれど、でもそれ以外の表現が見当たらなくて。
もしかしたら、このまま人間界じゃない所に連れて行ってくれるかもしれない。
今の私の救世主かもしれない。
冷静に考えたらきっと、イカれてるレベルの発想だという自覚はある。
でも、そんな妄想に縋ってしまいたくなるほどに、身体もココロも疲弊していた。
ただ誰かに、助けて欲しかった。