第3章 Sweets in the rain(紫原敦)
やっと立ち上がれた頃には、サッカーの試合も中止になるほどの雨になっていた。
予定外……そう、何もかも予定外だ。
改札の外から見える電光掲示板には、運転再開の文字。
良かった、帰れる。
そう思ったのに、足は勝手に改札とは逆の方向を向いていた。
あれだけ並んでいたカフェも、ファーストフード店も、もう閑散としていた。
そうだよね、だってあれだけの時間が経っていたんだもん。
まるでシャワーのような雨が、顔に降り注ぐ。
痛いほどの冷たい雨が、あっという間に衣服に染み込んで体温を奪っていく。
傘……いっか。
もうこんだけ濡れてんだもん、今更だ。
あのふたりは、帰ったら……するのかな。
付き合い始め、なんて感じじゃなかった。
ずっと前から裏切られてたんだ。
良かったじゃない、別れて。
これで、結婚して浮気されて……なんて、それこそ最悪な結末だ。
そうだよ、良かった良かった。
なんだろう。
なんだったんだろう。
私たちの時間って、なんだったんだろう。
……もう、考えたくない。
やめよ、しんどいだけだもん。
そう思ってるのに、耳の中にはふたりの声がこびりついてしつこく再生を続けている。
網膜には抱き合っているふたりのシルエットが焼き付いている。
散々、彼を大事にしなかったのは自分じゃないか。
会えばワガママばかり言い合っていたし、仕事が忙しければ疲れて連絡を取らない事だってあった。
あれがいけなかったのかなぁ。
あぁ、寒いなぁ。
寒い。
このまま、どっかに消えてしまいたいなぁ。
消えて、しまおうかなぁ。
足は勝手に人気のない方向へと向かっていく。
そのうち無人の公園に行き当たって、足が向くままブランコへと向かった。